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建設業界(ゼネコン・設備工事業)のM&A・事業承継を検討する場合_三浦 正裕

こんちには。かえでFA三浦です。本日は、建設業界のM&A・事業承継についてお話したいと思います。建設業界といっても、現場のマネジメントを行い工事を完成させるゼネコン、特化した技術により現場を支える専門工事業、建築物の設計を行う建築設計事務所、土木構造物の設計を行う建設コンサルタントなど分野は多岐に渡ります。すべてを網羅できるわけではありませんが、本日は、ゼネコンと専門工事業の中でも存在感の大きい設備工事業に関するトレンドを解説させていただき、M&A・事業承継を検討する方にとって有益なお話になるようにしたいと思います。それでは、始めていきます。

1.建設業界の市場規模と特徴

まずは市場規模を見ていきましょう。一般社団法人日本建設連合会によると、建設業界の市場規模(建設投資額)は約63.2兆円となっております。建設投資には大きく分けて、政府投資と民間投資の二つがあります。建設投資額の推移を見ると、バブル期に民間投資が急増し、建設投資額が大きく伸びました。その後、バブル崩壊後の民間投資の落ち込みを政府投資がカバーしましたが、それも長くは続けられず、ピーク時の1992年度に84兆円に達して以降2010年度まで減少傾向が続いておりました。2011年からは、東日本大震災の復興需要やオリンピックに向けたプロジェクトがあり増加が続いており、社会資本の整備という重要な使命を担う業界としての役割を取り戻しつつありましたが、2020年1月より世界的に広まった新型コロナウイルスの影響による建設需要の減少は避けられないと見られています。

※出典:建設業ハンドブック-2020(一般社団法人日本建設連合会)より弊社作成
※2018、2019年度は見込み額、2020年度は見通し額

建設業の特徴としては、産業の少ない地方で基幹産業として定着している点が言えます。地域の建設業は、建設工事だけでなく、インフラの維持管理、災害対応や除雪など、地域に欠かせない役割を担っております。しかし、地域社会を支えてきた建設業者の中には、労働力不足を始めとする様々な課題を抱えており、これまで担ってきた役割を維持できない建設業者も少なくないというのが現状です。

また、建設業は、典型的な受注産業です。建設構造物は単品受注生産のため、仕様、工期、品質など、発注者の様々な要望に沿って建設されます。よって、仕事量の変動が大きいため、雇用条件が不安定な労働者が多くなっております。そのような背景もあり、工事の専門化・分業化という目的も含めて、業務量の増減に対応するために、重層下請け構造が進みました。

さらに、多様な入札・契約方式が導入されているのも、建設業界の特徴です。特に、公共工事の場合、一般的に入札参加資格を保有する業者間で入札が行われてきましたが、価格競争が激化し、粗雑工事を防ぐことが重要になってきました。そのため、技術力のある会社が評価される総合評価方式を今後の基本とする方針が示されるなど、契約制度改革に関する取り組みが進んでおります。

2.業界のトレンド

続いて、業界のトレンドについて見ていきましょう。下記にお示しするのが主なトピックスです。

【建設業界全体のトレンド】

■労働力不足
建設投資が回復する一方、人手不足や労働者の高齢化が問題となっております。厚生労働省の調査では約4割の建設業者が作業員不足を訴えております。また、2018年には、建設業就業者のうち60歳以上が25%を占める一方で29歳以下の若年者は11%となっております。建設業界は一体となり、適切な賃金水準、計画的な休日取得などの処遇改善、教育訓練の充実、技能実習生の活用、女性が活躍できる環境作りなどに取り組む必要があるでしょう。

■建設DXへの取り組み
生産性向上・省人化や品質向上を目的として、デジタル技術を設計・施工・管理の各段階で取り入れ、ビジネスモデルを変革する取り組みが始まっております。具体的には、BIM(コンピューター上に作成した三次元モデル)の活用やICT施工(各工程から得られる電子情報を活用して高効率・高精度な施工を実現すること)、AIを用いた画像処理、ドローンの活用などです。今はスーパーゼネコンによる取り組みがほとんどであり、中小建設会社による取り組みはこれからとなりますが、費用対効果をしっかり検討してから取り組む必要があるでしょう。

■維持更新需要の拡大
今後、高度経済成長からバブル期にかけて建設された多くの構造物が更新時期を迎えます。公共インフラを例に挙げると、国土交通省や地方公共団体が2014年~2018年に行った点検において、全国の6万4千の橋、4千4百のトンネルなどが5年以内に修繕が必要と判定されました。2037年度には維持管理・更新だけで、現在と同じ規模の公共事業費となり、新規事業ができなくなると試算されております。これまで、維持更新工事を重視していなかった建設業者も多く、今後は、維持管理・更新を得意とする技術者の養成が大きな課題となるでしょう。

【設備工事業界のトレンド】

■分離発注方式の増加
分離発注方式とは施主と専門工事業者が直接契約するシステムです。工事の内容や金額の透明性が増し、契約の納得性が高まるとして、自ら取り組む発注者が増えております。これまで専門工事業の多くは元請けからの仕事を待つ立場であり、 積極的にビジネスチャンスをつかもうという動きは活発ではありませんでした。しかし、これからは元請けから仕事を請けるだけでなく、施主から直接仕事を貰うための提案力を強化したり、自らの責任施工体制を構築することが必要になってくるでしょう。

■省エネ提案の強化
エネルギーの使用の合理化等に関する法律(省エネ法)の改正が進み、工場・事業場等の設置者に対し、省エネへの取り組みを実施する際の目安となるべき判断基準を示すとともに、一定規模以上の事業者にはエネルギー使用状況等を報告させ、取り組みが不十分な場合には指導・助言等を行うこととしています。さらに、CSRとしての環境負荷低減や補助金制度の充実などから、省エネ型設備の需要が拡大しております。設備工事業者としては、これらの高める需要に対応するために、エネルギーの最適化も含めた、省エネ提案が必要になってくるでしょう。

3.業界のM&A事例

では、建設業界のM&A事例には、どのようなものがあるのでしょうか?

【ゼネコン業界のM&A事例】

■ナガワ社による鳥海建工社のM&A事例
ナガワ社はユニットハウス事業、モジュール・システム建築事業、建設機械事業を全国で展開する企業です。一方、鳥海建工社は建築工事業として埼玉県を中心に事業を展開しており、当地顧客からの実績と信頼を築いてきた企業です。ナガワ社は経営戦略として、モジュール・システム建築事業の体制強化に重点を置いており、建設機械事業とのシナジーも見込まれることから、鳥海建工社のM&Aに至りました。

■コニシ社による山昇建設社のM&A事例
コニシ社は家庭用のほか、建材用、内装用、工業用など多種多様な接着剤を製造販売するほか、化成品事業、土木建設事業をする企業です。一方、山昇建設社は名古屋市に本社を構え、東海地方を中心に土木工事を展開し、高い技術力を有する企業です。コニシ社は土木建設事業を成長戦略の柱として位置づけ一層の強化に取り組んでおり、同社の補修・改修・耐震・補強工事に関する材料・工法・施工能力と全国に展開する営業ネットワークを活用することによるシナジーを見込み、山昇建設社のM&Aに至りました。

■徳倉建設社による九州建設社のM&A事例
徳倉建設社は国内はもとより南米・東南アジアなどの海外にも力を入れる中堅ゼネコンです。一方、九州建設社は福岡市に本社を構え、九州地区を中心として民間建築工事をに強みを持ち、技術力と顧客からの信頼によって高いブランド力を保有する老舗の総合建設会社です。徳倉建設社は九州地区における共同営業体制、建築・土木の技術的補完体制、海外を含めた工事施工要員の人材交流等のシナジーを見込み、九州建設社のM&Aに至りました。

【設備工事業界のM&A事例】

■ホクタテ社によるクリシマ社のM&A
ホクタテ社はビルメンテナンス、通信、商社の3事業を展開しており、通信では電話回線やLAN工事を行う企業です。一方、クリシマ社は富山県高岡市に本社を構え、東京にも支店を保有し、電気設備工事やサイン工事を行う企業です。ホクタテ社はクリシマ社をグループ化することで、照明工事やエアコン工事など受注の幅を広げることや首都圏での受注拡大などのシナジーを見込み、クリシマ社のM&Aに至りました。

■ユアテック社による空調企業社のM&A
ユアテック社はオフィスビルや工場、病院などの施設における電気設備、空調・給排水の新設とリニューアル工事、電力会社の送変電、配電設備の建設・保守などを展開する東北電力グループの企業です。一方、空調企業社は、宮城県仙台市に本社を構え、当地にて空調管設備工事で豊富な施工実績を有する企業です。ユアテック社は、主要施策の1つである「空調管設備事業のさらなる強化による受注拡大」を進めていくため、他社との連携強化を検討するなど、特に営業面でのシナジーを見込み、空調企業社のM&Aに至りました。

■日本ハウズイング社によるメイセイ社のM&A事例
日本ハウズイング社は分譲マンションを中心に、オフィスビル・賃貸マンションの建物管理を展開する企業です。一方、メイセイ社は埼玉県草加市に本社を構え、給排水に関連した様々な設備や制御機器の保守・点検、調査・診断、清掃・洗浄、修理・工事業務を手掛ける企業です。日本ハウズイング社は、建物の老朽化を背景に、給排水設備に関する工事及び保守点検のニーズの高まりに対応するために、技術者の確保及び技術力の向上を見込み、メイセイ社のM&Aに至りました。

4. M&A/事業承継におけるポイント

事例を見てきたところで、M&Aを検討するにあたり、ポイントになる点を記載します。勿論これが全てではございませんが、参考にしてみてください。

■資格者はどのくらい在籍しているか
建設業の技術者の仕事は、実務経験に加えて、資格を兼ね備えてることが求められます。ゼネコンであれば建築施工管理技士、土木施工管理技士など、設備工事業であれば、管工事施工管理技士、電気工事施工管理技士などの国家資格です。監理技術者又は主任技術者になり得る資格を持つ社員が多く在籍していれば建設業者としての受注能力は高まります。さらに、社員の資格が経営事項審査の評点として評価されることもあり、資格者が多く在籍していれば、高評価を得られやすいでしょう。

■従業員の年齢構成はどのようになっているか
建設業就業者のうち60歳以が25%を占める一方で29歳以下の若年者は11%となっております。若手社員の確保は業界全体の課題ですが、若手にバランスが偏っていても最適ではありません。技術の承継という点では、一定数の経験豊富なベテラン社員も貴重な存在であり、バランスの取れた年齢構成であれば、高評価を得られやすいでしょう。

■経営事項審査の評点はどうか
今般、総合評価方式の入札が基本となっており、経審の評点は受注に大きく関わってきております。また、入札だけでなく、民間工事においても、施主が建設業者を選定する上での大きなポイントとして見ております。さらに、建設資材メーカーが販売先として建設業者を見た時に、経審の評点を与信判断の材料として活用することもあり、経審の評点が良ければ、高評価を得られやすいでしょう。

■定期的に受注できている顧客はいるか
建設業は典型的な受注産業です。しかし、特定顧客からの実績・信頼の積み重ねがなく、銘柄がコロコロ変わるようであれば、受注は不安定になりがちでしょう。建築なのか、土木なのか、建築土木の両方を事業展開しているのかにより、民間・公共の比率は大きく変わると思いますが、定期的に受注できている民間企業や地方自治体、中央省庁などがあれば、高評価を得られやすいでしょう。

■談合、粉飾などの問題点はあるか
建設業界ならではの問題点は少なくありません。中小建設業者では少なからず、このような問題点を抱えていることでしょう。しかしながら、譲受側としては、M&A後のリスクを負うことになるため、このような問題点に対しては慎重になります。リスクを極小化するために、譲渡側、譲受側がしっかり協議のうえ、M&A前に対策を検討することが必要でしょう。

5.終わりに

いかがでしたでしょうか?一般的に、建設業界は、スケールメリットが働きにくいという特性によりM&Aが起きにくいと言われてきました。しかし、1995年に47歳だった最も経営者に多い年齢が2018年に69歳になるなど、事業承継ニーズの高まりにより、建設業界のM&Aは増加しております。さらに、譲渡側が人材補完や商圏拡大などを目的とするものや、譲受側が受注の幅を拡大することを目的とするものなど、成長戦略としてのM&Aも増加しております。ここで記載したことが全てではありませんが、M&Aを検討するすべての方にとって、この情報がお役に立てば嬉しく存じます。

かえでファイナンシャルアドバイザリー株式会社

マネージャー

三浦 正裕 Masahiro Miura

 

鈴与グループにてエネルギーや建材などの営業に従事し、2017年新規開拓実績全社1位など多数受賞。
その後、株式会社日本M&Aセンターにて、物流、印刷、建設、医療、卸売など幅広い業界のM&A案件に携わるなど、2019年は売上予算比153%達成。
2020年にかえでファイナンシャルアドバイザリーに入社し、M&A・事業承継アドバイザリー業務を担当。

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