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プロが解説!M&A・事業承継時の経営者保証解除

M&Aのお役立ち情報

中堅・中小企業のM&Aでは、承継を予定している対象会社の借入金・リースその他の債務に対して、売り手(旧)オーナー経営者が連帯保証(経営者保証)しているケースは少なくありません。

承継後・引継ぎ期間を経て、売り手(旧)オーナーは経営に関与することは原則なくなるため、このタイミングで連帯保証を解除してもらう必要があります。ただ、できることなら事業承継、M&A前に解除できたら、承継プロセスがスムーズに実行できるので望ましいでしょう。

また後継者においても、事業承継・M&Aにあたり連帯保証は引き継ぎたくないという要望も増えてきています。

そこで本コラムでは、親族内承継、M&A時に承継の障害にならないように、旧経営者、新経営者に知っておいていただきたい経営者保証解除の手続き、注意点について解説します。

Ⅰ. 経営保証の目的、問題点

中堅・中小企業の経営者による個人保証(以下「経営者保証」という)には、経営への規律付けや信用補完として資金調達を円滑にする効果がある反面、経営者による積極的な事業拡大や経営が悪化した場合におけるスピーディーな事業再生、後継者不足が深刻化する中で事業承継時に大きな障害要因になっている、など経営者保証の様々な課題も露呈してきています。

 

Ⅱ.経営者保証に関するガイドラインと準則

これらの経営者保証の課題に対処するため、平成25年12月に「経営者保証ガイドライン」

(以下、「ガイドライン」という。後掲「参考資料」)が公表され、平成26年2月1日から適用されています。

このガイドラインは、中小企業金融における経営者保証について、債務者(対象会社)、保証人(経営者個人)、及び債権者(金融機関)において合理性が認められる保証契約のあり方が示されており、経営者保証の課題に対する適切な対応方法を通じてこれらの弊害を解消し、中小企業の各ライフステージ(創業、成長発展、事業再生、事業承継など)における中小企業の取り組み意欲の増進を図り、ひいては中小企業金融の実務の円滑化を通じて中小企業の活力が一層引き出され、日本経済の活性化に役立つことを目的に作成されています。

このガイドラインの公表とその後の運用を通して、新規融資に占める無保証融資の割合が上昇し、M&A・事業承継時に前経営者、新経営者の双方から二重に保証を求める(以下、「二重徴求」という)割合も低下し、経営者保証に依存しない融資の拡大に向けて取り組みが進んでいます。

ただし、M&A・事業承継に際しては、経営者保証を理由に後継者候補が承継を拒否するケースが一定程度あることが指摘されるなど課題も残されており、経営者保証は事業承継、M&Aの阻害要因にならないよう、原則として前経営者、後継者の双方から二重徴求を行わないことなどを盛り込んだ「経営者保証に関するガイドラインの特則」(以下、「ガイドラインの特則」。後掲「参考資料」)が令和元年12月に公表され、令和2年4月1日から適用されています。

 

Ⅲ.事業承継・M&A時までに対象会社及び売り手オーナー(連帯保証人)が対応すべき事項

対象会社及び売り手オーナーが事業承継・M&A時までに経営者保証を解除しておきたい場合には、以下に説明する3つの経営状態であることが求められます。

もしこれらの用件が未充足でも、後継者の負担を軽減させるために、事業承継、M&Aの準備としてこの要件を充足するように主体的に経営改善に取り組むことが大事です。

したがって、「事業承継ガイドライン第3版」(中小企業庁、令和4年3月。後掲「参考資料」)にも記載されている事業承継・M&Aに向けた5つのステップ(①事業承継に向けた準備の必要性の認識、②経営状況・経営課題等の把握(見える化)、③事業承継に向けた経営改善(磨き上げ)、④事業承継計画の策定、M&A等のマッチング実施、⑤事業承継・M&Aの実行)を参照しつつ、事業承継・M&A後の取り組みも含めて、以下のような対応が求められています。

 

1.法人と経営者との関係の明確な区分と分離

経営者は、事業承継、M&Aの実行に先立ち、経営権・支配権の移行方法、スケジュールを定めた事業承継・M&A計画や事業承継・M&A前後の事業計画を策定・実行する中で、法人と経営者との関係の明確な区分・分離を確認した上で、その結果を後継者や金融機関と共有し、必要に応じて改善に努める必要があります。

具体的には、法人の事業用資産の経営者個人所有の解消や法人から経営者への貸付等による資金の流出の防止等、法人の資産・経理と経営者個人の資産・家計を適切に分離することが求められています。

 

2.財務基盤の強化

事業承継に向けて事業承継・M&A計画や事業計画を策定する際には、現経営者と後継者がタイミングを見て金融機関とも対話し、将来の財務基盤の強化に向けた具体的な取組や目標を検討し、計画に盛り込むことで、金融機関とも認識を共有します。

財務基盤の強化は、経営者個人の資産を債権保全の手段として確保しなくても、法人のみの資産・収益力で借入返済が可能と判断し得る財務状況にする必要があります。

例えば、以下のような状況が考えられます。

≫業績が堅調で十分なキャッシュフローを確保しており、内部留保も十分であること
≫業績はやや不安ではあるものの、業況の下振れリスクを勘案しても、内部留保が潤沢で借入金全額の返済が可能と判断し得ること
≫内部留保は潤沢とは言えないものの、好業績が続いており、今後も借入を順調に返済し得るだけのキャッシュフローを確保する可能性が高いこと

 

3.財務状況の正確な把握、適時適切な情報開示等による経営の透明性確保

経営者は、資産負債の状況(経営者個人を含む)、事業計画、業績見通し及びその進捗状況等に関する金融機関からの情報開示の要請に対して、正確かつ丁寧に信頼性の高い情報を開示・説明することにより、経営の透明性を確保する体制を整えます。また、開示・説明した後に、事業計画・業績見通しなどに変動が生じた場合にも、自発的に報告するなど適時適切な情報開示をする必要があります。

具体的には、以下のような対応が求められます。

≫貸借対照表、損益計算書の提出のみでなく、各勘定科目明細の提出
≫期中の財務状況を確認するため、年に1回の本決算の報告のみでなく、月次試算表、資金繰り表などの定期的な報告
≫経営権、支配権の移転等が行われた場合、速やかに金融機関に報告

 

Ⅳ.金融機関の対応

金融機関の事業承継、M&A時の経営者保証の取り扱いについては、原則として、前経営者、後継者の双方から二重には保証を求めないこととし、後継者との保証契約にあたっては経営者保証が事業承継、M&Aの阻害要因となりえる点を十分に考慮し、保証の必要性を慎重かつ柔軟に判断すること、前経営者との保証契約については、引継ぎ完了後、前経営者がいわゆる第三者となる可能性があることを踏まえて保証解除に向けて適切に見直しを行うことが求められています。

 

1.前経営者、後継者の双方の保証契約

原則として前経営者、後継者双方から二重には保証を求めないということですが、例外として二重徴求される事例としては以下のとおりです。

≫前経営者が死亡し、相続確定までの間、亡くなった前経営者の保証を解除せずに後継者から保証を求める場合など、事務手続完了後に前経営者等の保証解除が予定されている中で、一時的に二重徴求となる場合

≫前経営者が引退等により経営権・支配権を有しなくなり、ガイドラインの特則に基づいて後継者に経営者保証を求めることが止むを得ないと判断された場合において、法人から前経営者に対する多額の貸付金等の債権が残存しており、その債権が返済されない場合に法人の債務返済能力を著しく毀損するなど、前経営者に対する保証を解除することが著しく公平性を欠くことを理由として、後継者が前経営者の保証を解除しないことを求めている場合

≫金融支援(債務者にとって有利な条件変更を伴うもの)を実施している先、又は元金等の返済が事実上延滞している先であって、前経営者から後継者への多額の資産等の移転が行われている、又は法人から前経営者と後継者の双方に対し多額の貸付金等の債権が残存しているなどの特段の理由により、当初見込んでいた経営者保証の効果が大きく損なわれるために、前経営者と後継者の双方から保証を求めなければ、金融支援を継続することが困難となる場合

≫前経営者、後継者の双方から、専ら自らの事情により保証提供の申し出があり、ガイドラインの特則上の二重徴求の取扱いを十分説明したものの、申し出の意向が変わらない場合

 

2.後継者との保証契約

後継者に対し経営者保証を求めることは事業承継の阻害要因になり得ることから、後継者に当然に保証を引き継がせるのではなく、必要な情報開示を得た上で、上記Ⅲ.の3つの経営状況を勘案して、保証契約の必要性を改めて検討するとともに、事業承継・M&Aに与える影響も十分考慮し、慎重に判断することが求められています。

具体的には、経営者保証を求めることにより事業承継が頓挫する可能性や、これによる地域経済の持続的な発展、金融機関自身の経営基盤への影響などを考慮し、上記Ⅲ.の3つの経営状況の要件の多くを満たしていない場合でも、総合的な判断として経営者保証を求めない対応ができないか真摯かつ柔軟に検討することが求められています。

また、こうした判断を行う際には、以下の点も踏まえて検討を行うことが必要とされています。

  • 対象会社との継続的なリレーションとそれに基づく事業性評価や、事業承継に向けて対象会社が作成する事業承継計画や事業計画の内容、成長可能性を考慮すること
  • 規律付けの観点から金融機関に対する報告義務等を条件とする停止条件付保証契約等の代替的な融資手法を活用すること
  • 外部専門家や公的支援機関による検証や支援を受け、上記Ⅲ.の3つの経営状況の要件充足に向けて改善に取り組んでいる対象会社については、検証結果や改善計画の内容と実現見通しを考慮すること
  • 中小企業活性化協議会による上記Ⅲ.の3つ経営状況を踏まえた確認を受けた中小企業については、その確認結果を十分に踏まえること

こうした検討を行った結果、後継者に経営者保証を求めることが止むを得ないと判断された場合、以下の対応について検討を行うことが求められています。

  • 資金使途に応じて保証の必要性や適切な保証金額の設定を検討する(例えば、正常運転資金や保全が効いた設備投資資金を除いた資金に限定した保証金額の設定等)
  • 規律付けの観点や財務状況が改善した場合に保証債務の効力を失うこと等を条件とする解除条件付保証契約等の代替的な融資手法を活用すること
  • 対象会社の意向を踏まえ、事業承継の段階において、一定の要件を満たす中小企業については、その経営者を含めて保証人を徴求しない事業承継特別保証制度(後掲「参考資料」)を活用すること
  • 対象会社が事業承継時に経営者保証を不要とする政府系金融機関の融資制度(後掲「参考資料」)の利用を要望する場合にはその意向を尊重して、真摯に対応すること

 

3.前経営者との保証契約 

前経営者は、実質的な経営権・支配権を保有しているといった特別の事情がない限り、いわゆる第三者に該当する可能性があります。

令和2年4月1日からの改正民法の施行により、第三者保証の利用が制限されることや、金融機関においては、経営者以外の第三者保証を求めないことを原則とする融資慣行の確立が求められていることを踏まえて、保証契約の適切な見直しを検討することが求められています。

保証契約の見直しを検討した上で、前経営者に対して引き続き保証契約を求める場合には、前経営者の株式保有状況(議決権の過半数を保有しているか等)、代表権の有無、実質的な経営権・支配権の有無、既存債権の保全状況、法人の資産・収益力による借入返済能力等を勘案して、保証の必要性を慎重に検討することが必要です。

特に、取締役等の役員ではなく、議決権の過半数を有する株主等でもない前経営者に対し、止むを得ず保証の継続を求める場合には、より慎重な検討が求められています。

また、金融機関は、具体的に説明することが必要であるほか、前経営者の経営関与の状況等、個別の背景等を考慮し、一定期間ごと又はその背景等に応じた必要なタイミングで、保証契約の見直しを行うことが求められています(根保証契約についても同様)。

 

(参考資料)

・経営者保証に関するガイドライン
https://www.zenginkyo.or.jp/fileadmin/res/abstract/adr/sme/guideline.pdf

・経営者保証に関するガイドラインの特則
https://www.zenginkyo.or.jp/fileadmin/res/abstract/adr/sme/guideline_sp.pdf

・経営者保証に関するガイドラインQ&A
https://www.zenginkyo.or.jp/fileadmin/res/abstract/adr/sme/guideline_qa.pdf

・事業承継ガイドライン(第3版)
https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/download/shoukei_guideline.pdf

・事業承継時に経営者保証を不要とする新たな信用保証制度の創設
https://www.chusho.meti.go.jp/kinyu/hosyoukaijo/2020/200115kaijoshiryou02.pdf

・日本政策金融公庫「事業承継・集約・活性化支援資金」
https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/jigyoukeisyou.html

 

Ⅴ.まとめ

売り手経営者は、株価を高める目的で、事業承継・M&Aの準備手続きとして、経営者保証の解除、少数株式の集約、名義株式の整理、非事業資産の売却、個人所有の事業用資産の譲渡、月次管理体制の強化などを早期に進める必要があります。

弊社では20年近く事業承継M&Aのサポートを行ってきた実績を活かし、経営者保証の解除、少数株式の集約などの事業承継・M&Aの準備、M&A実行手続、M&Aに関する税金、M&A後の資産運用、相続税対策までワンストップで対応させていただきますのでまずは無料相談をお気軽にご利用ください。

 

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売り手経営者のM&Aによるメリット

Ⅰ.経営者個人のメリット

1. 創業者利潤の獲得
M&A(株式譲渡)による税金は約20%で、役員給与、賞与、贈与・相続による税率よりも大きなメリットがあります。手取現金を多く残したいということであれば、親族内承継よりもM&Aが一般的に有利です。

2.個人保証・担保の解除
買い手は一般的に売り手企業よりも規模が大きく、その分金融機関からの与信が大きくなります。したがってM&Aのタイミングで経営者の個人保証・担保は解除されます(借入金の一括返済または保証の引継ぎ)。親族内承継では、前の経営者の保証が解除されないケースや承継者に保証を新たに求めたり、新旧両経営者に保証が残るケースもあります。

Ⅱ.会社のメリット

1.グループ経営による財務、人材のバックアップ、ブランディングによる採用
大手企業のグループに統合することによりブランド力、信用力が向上し、金融機関から資金調達力、人材採用力、取引先との交渉力などが強化されるため、このグループ力を生かして業績が急上昇します。株式上場の夢も実現可能性が高くなります。

2.従業員の雇用継続とモチベーションの向上
中小企業は一般的にオーナー経営になっている場合が多いため、従業員の視点から処遇の改善、個人のやりがい(能力の向上、キャリアアップ)が見込めない状態になっている場合も少なくありません。グループ経営により、業績が向上し、個人経営から組織経営に脱皮し、個人のモチベーション、やりがい、生きがい、処遇などが確実に向上します。

 

本記事の執筆者

かえでファイナンシャルアドバイザリー株式会社_代表取締役_佐武伸

かえでファイナンシャルアドバイザリー株式会社
代表取締役
佐武 伸

 

兵庫県宝塚市出身。関西学院大学商学部卒。米国サンダーバード国際経営大学院卒(MBA)。
朝日監査法人(現あずさ監査法人)にて上場企業数十社の会計監査、システム監査、株式公開準備(IPO)プロジェクト等に参画。
その後、奥田公認会計士事務所で中堅・中小企業の国内・国外税務戦略立案、事業承継対策、IPO等の幅広いコンサルティング業務に従事。専門は、M&Aコンサルティング、企業評価、会計・税務コンサルティング。
2005年にかえでファイナンシャルアドバイザリー株式会社を設立、代表取締役に就任。
元中央大学ビジネススクール客員教授(M&A戦略)。

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