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食品卸業界のM&A | 良い相手と良い条件で成約するポイント

業種別M&A

食品卸業界では、昨今、内食や中食需要の高まりにより、食品卸の低温・冷凍分野において成長性も見込まれていますが、少子高齢化に伴い市場は長期的には縮小傾向にあります。

また、為替や国際情勢の変化により仕入価格は増加してきていますが、価格転嫁が厳しく、中間卸売や最終卸を経由しないケースも増加しており、生き残りをかけて中小規模事業者ではM&Aが加速しています。

そこで、本コラムでは、食品卸会社のM&A・事業承継で押さえたいポイントや成功の法則を分かりやすく解説します。

Ⅰ. 食品卸業界の市場規模と特徴

2022年の食料・飲料卸売業の販売額は前年比6.9%増の57.1兆円でした(2023年2月15日、経済産業省の商業動態統計)。

ここ10年の食料・飲料卸売業の販売額の推移は、緩やかな上昇傾向にあります。2019年は前年に比べて減少に転じましたが、2020年以降は再び増加傾向にあります。2022年は統計が公表されている過去43年間で最高額を記録しており、新型コロナ禍でも底堅い推移を見せています。

2020年の食品卸業界は、コロナによる巣ごもり需要増の影響により、スーパーやディスカウントストアなど家庭向けが伸長したものの、飲食店などの業務用需要が落ち込み、全体としては横ばい、企業によっては微増で推移しました。

2021年は、年前半の新型コロナによる落ち込みと年後半の経済再開が入り混じる一年でした。2020年に落ち込んだ業務用は一部で回復を見せた一方、前年好調だった家庭向け食品需要は反動減となりました。

品目別では、好調だった調味料や菓子、缶詰、乾物などの家庭向け食品は伸びが鈍化しましたが、前年落ち込んだ業務用の冷凍食品やチルド食品、ビールなどのアルコール類は回復し、2021年は年後半から経済再開の動きとなり、前年からの巻き戻しの動きが見られました。

 

Ⅱ.食品卸業界のトレンド

食品卸の市場規模は、2015年に食品メーカー各社が景気の回復基調を捉え、原材料価格の高騰を主因とした値上げを実施したことや中食等のチルド品、冷凍食品等の低温カテゴリーの需要増加に伴い拡大傾向で推移しています。

大手食品卸の業績推移をみれば、価格の上昇に伴う取引額増加やM&A等による業界再編により売上高を伸ばしているものの、競争の激化や物流コストの上昇等を背景に、経常利益率は1%を切る水準で推移しています。

損益構造は、売上原価率が84%と高く、また販管費における物流コストの占める割合が高い構造となっています。食品卸業界の物流コストは、食品の商品特性(単価あたりの大きさ、温度管理の必要性、配送頻度の高さ等)が原因で、他の卸売業と比較して高くなっています。

現在、人手不足を背景にした輸送費、保管費の上昇から物流コスト比率は上昇傾向にあり、コロナ禍でも堅調な推移を見せた食品卸業界ですが、少子高齢化などを含め業界を取り巻く環境は楽観視できない状況です。

 

Ⅲ.食品卸会社のM&A事例

では、食品卸会社のM&A事例にはどのようなものがあるのでしょうか?

 

◆同業による規模拡大、新サービスの拡充を目的とした事例

2022年5月、株式会社SANKYOMARKETINGFOODS(以下「SANKYO」)は、東京都中央卸売市場の卸売業者である綜合食品株式会社(以下「綜合食品」という。)の全株式を取得し、子会社化しています。

SANKYOは、水産事業6次産業化モデルの構築を中期事業計画の骨子にしております。また、SDGs 経営に焦点を当て、「社会課題の解決」を挑むべき事業成長の機会として捉え、産地と連携をして水産事業の新しい価値を生み出すことを目指しています。

綜合食品は、1943年設立の綜合食品配給統制組合を前身として 1947 年 11 月に法人化、豊洲市場で 7 社しかない水産物卸売会社(大卸)の1社として全国の産地との間に立ち首都圏を中心に安定的に商品を提供する事を最大の使命として事業運営をしております。

今回のSANKYOによるM&Aは、豊洲市場の集荷および分配の機能を持つことで、水産事業6次産業化モデルの構築スピードを確実に向上させ、「豊洲ポジション」の獲得は市場取引に関わる荷主や顧客との太いパイプラインの獲得につながることを目的としています。

また、綜合食品は豊洲市場の荷主・顧客に対して同業他社にはないSANKYO独自の価値提案を行うことで事業成長への転換を企図しています。

 

◆同業によるエリア強化を目的としたM&A事例

2021年3月、株式会社トーカン(以下「トーカン」)は 、セントラルフォレストグループ株式会社(親会社、以下「セントラルフォレストグループ」)の取締役会において、トーカンによる三給株式会社(以下「三給」)の全株式を取得、子会社化することについて決議し、株式譲渡契約書を締結しています。なお、三給には株式会社ヒカリ(以下「ヒカリ」)という子会社があるため、三給の株式取得によりヒカリもグループ会社となります。

セントラルフォレストグループ及びトーカンは、グループ長期戦略「アクセル2025」において、給食市場及び中食・惣菜市場を重要な戦略領域として捉え活動を進めています。

三給は東海エリアにおける給食市場向けの食品卸売事業として強みを有しており、ヒカリは東海エリアにおけるスーパー惣菜向けの食品卸売事業を行っております。

今回のセントラルフォレストグループ及びトーカンによるM&Aは、三給の強みである給食市場及び中食・惣菜市場で双方のリソースを活かし、相乗効果を発揮するとともに、給食市場への参入及び中食・惣菜向けの売上拡大を図り、企業価値の向上に繋げることを目的としています。

 

◆同業による空白エリアの獲得を目的とした買収事例

2021年2月、旭食品株式会社(以下「旭食品」)は、ヤマキ株式会社(以下「ヤマキ」)の発行済み株式の 95%を譲り受けています。

今回のM&Aは、旭食品の空白エリアである東海地区で食品卸売事業を展開しているヤマキを子会社として迎えることで、ヤマキが保有する営業基盤を活用しながら、事業拡大を図ることを目的としています。

旭食品は、ヤマキを子会社化した後も、ヤマキの自主性を維持しながら、営業面の強化や低温領域への投資を促進し、東海地区での事業基盤の強化・拡大を企図しています。

 

Ⅳ.食品卸会社のM&A・事業承継のポイント

食品卸会社・事業を売却するとき、「できるだけ良い条件で売却したい」という方が多いと思いますので、その良い条件を獲得するためのポイントを解説します。

まず交渉を有利に進めるためにも、買い手が見るポイントを以下で説明します。

 

【買い手が見るポイント】

①食品衛生法
食品卸業者の取り扱い商品で、食品衛生法51条、同法施行令35条に定める「公衆衛生に与える影響が著しい営業」に該当する場合(食肉、魚介類、乳類などを扱う)には、営業施設について、都道府県所定の基準を満たしたうえで、都道府県知事の営業許可を取得する必要があります。

また、酒類を扱う場合には、販売場ごとに、所在地の税務署から酒類販売業免許を取得する必要がありますので、まずはこれらの業法との順法性が問われます。

②顧客・消費者
主要販売先であるスーパーや飲食店などでは中間流通を介さない仕入れで、仕入価格を抑える「中抜き」を行う動きが進んでおり、業界で死活問題となっている経営課題です。このような課題に対し、今後どのような戦略で生き残りを図るのか、戦略が検討されます。

③仕入
上述しましたように、売上原価率は84%と高く、仕入価格の増加は利益に直接大きなインパクトを与えます。食品相場や為替動向などにより値上げせざるを得ない状況下で価格転嫁が進んでいるのか、その価格増加分を取引先との力関係がある中で、メーカー、卸売業、小売業でどのように分担して吸収しているのか、などが詳細に分析されます。

④貸し倒れリスク
小売、飲食業界では再編が加速しており、小規模事業者の経営環境はますます厳しくなっているため、業者数も減少傾向にあります。卸会社としては、貸し倒れを回避するために、小口販売先の動向に常に目を光らせる必要があり、適正な管理体制の構築が要求されます。

⑤滞留在庫と配送効率
卸会社は、欠品を恐れて在庫数量が膨らみやすい傾向にあります。また、食品という特性上、賞味期限、納品期限(3分の1ルール)に関連する値引き販売や廃棄ロスは、売上総利益を大きく低下させます。自社倉庫や車両を持っている場合には、取引先の減少に伴い配送効率などの悪化にもつながりますので管理体制の強化が問われます。

⑥クレーム、バグ(欠陥)対応
過去にどんなクレーム、バグがあったのか、どんな対応を行ったのか、状況説明できるようにリストを作成しておくと良いでしょう。

⑦従業員の定着率
現在人手不足が最大の経営リスクとなっているため、従業員の定着率が低い場合、原因が待遇にあるのか、労働環境にあるのか、など原因を突き止めておくと良いでしょう。

⑧社員の教育研修
質の高い従業員を確保するため、採用時における人材の評価方法、最新技術動向の教育など人材の質を確保するための取り組みが重要視されます。

 

【良い条件で売却するポイント】

①経営課題は伸びしろと考える
どのような食品卸会社でも何らかの経営課題を抱えています。まず売却の一番のポイントは、経営課題をネガティブなものとして捉えるのではなく、「伸びしろ」として捉えることです。つまり、自社で解決できない経営課題を解決してくれる買い手が「ベストパートナー」、イコール「良い条件を出してくれる相手」ということです。例えば、人材の採用に課題があれば、採用に強い買い手と組むべきですし、資金調達に課題があれば、資金に余裕がある買い手と組むことがM&Aで良い条件を引き出す重要なポイントとなります。

②赤字の原因を明らかにする
現在、事業が赤字、債務超過の状況にあっても、「赤字、債務超過だから売却できない」ということはありません。食品卸会社を売却するうえで、重要なのは赤字の原因を明らかにすることです。例えば、赤字の原因が人材不足にある場合、「もし人材の豊富な買い手と組めば、適正な管理体制や営業・マーケティング力はあるので必ず黒字転換できる」などと、きちんと伸びしろを最大限反映させた説明をすべきです。さらに、赤字の原因を解消できた状態の事業計画を準備しておけば、その伸びしろは買い手から高く評価されます。

③従業員の引き抜きを目的としたM&Aに注意
M&Aのプロセスを進めるうえで、買い手から従業員リストの提出を求められる場合があります。中には従業員の引き抜きを画策する買い手もいるため、個人名などの固有名詞は伏せてください。また、M&Aは従業員に与える影響が大きく、不安を感じる従業員は多いものです。従業員の離職につながらないよう、情報漏洩には注意してください。従業員にM&Aのことを開示するタイミングは最終契約書を締結した後が望ましいといえるでしょう。

④成約後は速やかに取引先・業提提携先に対する説明会を開催
倉庫企業の経営において、取引先・業務提携先との信頼関係は重要な要素です。買い手は既存の既存の取引先や業務提携先の反応を心配します。これらの取引先・提携先の理解を得るためにも、M&Aが完了した段階で速やかに説明会などを行い、買い手が安心できる企業であること、M&A前と運営は何も変わらないことを伝えましょう。

 

Ⅴ.まとめ

当社は、世界的に有名なREFINITIV(旧トムソンロイター)のM&A成約件数ランキングに9年連続ランクインしております。

また、豊富な譲り受けニーズを保有しており、2005年の設立(M&A業界では老舗)以来、蓄積してきた豊富な譲り受け希望企業のニーズを保有しています。

事業の今後の成長性を考慮した事業計画作成による譲渡価額最大化や、補助金・税制の申請支援、M&A後の相続税対策、資産運用などのご相談も承ります。

M&Aアドバイザリー会社では珍しく弊社には営業ノルマがないため、弊社の都合でM&A実行を急がせることはなく、ベストなタイミング・譲渡候補先をご提案いたします。

まずは、M&A・事業承継に関する事例やお話だけ聞いてみたいという方もお気軽にご連絡くださいませ。

 

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売り手経営者のM&Aによるメリット

Ⅰ.経営者個人のメリット

1. 創業者利潤の獲得
M&A(株式譲渡)による税金は約20%で、役員給与、賞与、贈与・相続による税率よりも大きなメリットがあります。手取現金を多く残したいということであれば、親族内承継よりもM&Aが一般的に有利です。

2.個人保証・担保の解除
買い手は一般的に売り手企業よりも規模が大きく、その分金融機関からの与信が大きくなります。したがってM&Aのタイミングで経営者の個人保証・担保は解除されます(借入金の一括返済または保証の引継ぎ)。親族内承継では、前の経営者の保証が解除されないケースや承継者に保証を新たに求めたり、新旧両経営者に保証が残るケースもあります。

Ⅱ.会社のメリット

1.グループ経営による財務、人材のバックアップ、ブランディングによる採用
大手企業のグループに統合することによりブランド力、信用力が向上し、金融機関から資金調達力、人材採用力、取引先との交渉力などが強化されるため、このグループ力を生かして業績が急上昇します。株式上場の夢も実現可能性が高くなります。

2.従業員の雇用継続とモチベーションの向上
中小企業は一般的にオーナー経営になっている場合が多いため、従業員の視点から処遇の改善、個人のやりがい(能力の向上、キャリアアップ)が見込めない状態になっている場合も少なくありません。グループ経営により、業績が向上し、個人経営から組織経営に脱皮し、個人のモチベーション、やりがい、生きがい、処遇などが確実に向上します。

 

本記事の執筆者

かえでファイナンシャルアドバイザリー株式会社_代表取締役_佐武伸

かえでファイナンシャルアドバイザリー株式会社
代表取締役
佐武 伸

 

兵庫県宝塚市出身。関西学院大学商学部卒。米国サンダーバード国際経営大学院卒(MBA)。
朝日監査法人(現あずさ監査法人)にて上場企業数十社の会計監査、システム監査、株式公開準備(IPO)プロジェクト等に参画。
その後、奥田公認会計士事務所で中堅・中小企業の国内・国外税務戦略立案、事業承継対策、IPO等の幅広いコンサルティング業務に従事。専門は、M&Aコンサルティング、企業評価、会計・税務コンサルティング。
2005年にかえでファイナンシャルアドバイザリー株式会社を設立、代表取締役に就任。
元中央大学ビジネススクール客員教授(M&A戦略)。

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