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倉庫業界のM&A | 良い相手と良い条件で成約するポイント

業種別M&A

倉庫業界の市場規模は年々拡大し、需要も増加していますが、近年では新型コロナウイルスの影響もあり、物流業界に対する需要はさらに増加の一途をたどっています。

特に、昨今の多様化するインターネットショッピングによる配送需要の高まりに対応する戦略として、現在、倉庫業界で中堅・中小企業を中心にM&Aが活発に行われています。

これは、M&Aによるグループ化により、3PL事業、海外ネットワークの強化、資金調達力、人材獲得力、物流DX化などで売り手企業、買い手企業双方に与えるメリットが大きいからです。

そこで、本コラムでは、物流企業のM&Aで押さえたいポイントや成功の法則を分かりやすく解説します。

Ⅰ. 倉庫業界の市場規模と特徴

倉庫業界の国内の市場規模は、現在約3.6兆円です(2023年)。

今後5年間(2028年)で約1%成長し、3.7兆円に達すると予想されています。

成長率の内訳別は、物流センターが約6%、低温・冷蔵・冷凍倉庫約1.4%、常温倉庫約0.5%の成長が期待され、全体として約1%と予測されています。

所管面積(年平均)は846万平方メートル、保管残高は約2兆6,000億円(2021年)となっています。所管面積と保管残高は、拡大するインターネット通販の需要拡大で今後も増加すると期待されています。

 

Ⅱ.倉庫業界のトレンド

倉庫業は、物流業の中で主として保管機能を担います。倉庫内での作業は、大きく「保管」と「荷役」に分かれており、特に荷役は業務の中で大きなウェイトを占めています。

人件費の割合が高いビジネスであり、倉庫業務の自動化などの対応が求められています。

倉庫業界の市場は拡大しており、業界内の同業者も多いのが特徴です。特にEC市場の発展の影響により、今後も引き続き成長が見込まれていますが、物流業界全体でも他業種と同様、人手不足や人件費高騰がより一層深刻化することが予想されており、倉庫業界としても早急な対応に迫られています。

保管サービスだけでは差別化が難しく、付加価値をつけるために、ロボットによる自動化など物流設備の整備が必須であり、業界再編を目的としたM&Aが今後も活発に行われることが期待されています。

 

Ⅲ.倉庫企業のM&A事例

では、倉庫企業のM&A事例にはどのようなものがあるのでしょうか?

 

◆同業による規模拡大を目的とした事例

2022年12月、安田倉庫株式会社(以下、「安田倉庫)」は、エーザイ株式会社(以下、「エーザイ」)の子会社であるエーザイ物流株式会社(以下、「エーザイ物流」)の全株式を取得する株式譲渡契約を締結しています。

エーザイ物流は、1991 年 にエーザイの 100%子会社として設立され、主にエーザイグループ製品の物流関連業務を担い、安定供給に貢献するとともに、サードパーティ製品の取り扱い実績も多く、医薬品物流に特化した豊富な経験とノウハウを有する企業です。

エーザイ物流は、安田倉庫グループの傘下に入ることでシナジー効果が発揮され、同社の持続的成長とさらなる発展に加え、日本における医薬品の安定供給により一層貢献することが期待されます。

安田倉庫は、エーザイ物流の持つ医療用医薬品配送ネットワークと安田倉庫グループの持つ倉庫運営経験を融合させることで、安田倉庫グループの成長戦略の重要な柱であるメディカル物流事業におけるサービスの向上、拠点の拡充など、これまで以上に高品質なメディカル物流サービスの実現につながると判断し、M&Aが実行されています。

 

◆3PL大手による首都圏強化を目的としたM&A事例

2020年12月、3PLの大手SBSホールディングス株式会社(以下、「SBS」)は、SMC株式会社から、同社の子会社である東洋運輸倉庫株式会社(以下、「東洋運輸倉庫」)の普通株式を取得し、東洋運輸倉庫を子会社化しています。

SBSは、国内人口の一極集中や電子商取引の進展に伴って、首都圏近郊の倉庫需要が拡大し、機械化・自動化等の高度な物流倉庫の必要性が一層進展するとの見込みから、東京臨海部における最先端倉庫への投資を積極的に進めています。

東洋運輸倉庫は東京臨海部の東扇島(神奈川県川崎市)、若洲(東京都江東区)に大型倉庫を保有しており、SBSは、当該地域で展開している既存倉庫と融合させることによって、長期的視点での倉庫開発を可能とし、将来的に当該地域におけるグループの物流インフラのポテンシャルを最大化して、新たな顧客層へアプローチすることができるものと期待しています。

今回のM&Aによって、SBSは、東洋運輸倉庫と共に、グループが保有するさまざまなインフラ・ノウハウの共有、物流業務における協業とシナジー追求によって、企業価値を向上させる体制を整える予定にしています。

 

◆物流大手企業による取扱い商品の拡充、商圏拡大の獲得を目的とした買収事例

2020年10月、センコー株式会社(以下「センコー」)は、化学系専門商社として売上高国内トップの「長瀬産業株式会社」(以下「長瀬産業」)のグループ会社で、化学品の保管・配送管理などを行っている「ナガセ物流株式会社」(以下「ナガセ物流」)の株式の過半数を取得し、子会社化しています。また、同日付で「センコーナガセ物流株式会社」と社名変更しています。

ナガセ物流は、自社3拠点を中心に全国約100拠点の寄託倉庫と連携した迅速な物流体制を有し、長瀬産業や NAGASE グループ各社が取り扱う多様な化学品の物流を中心に、化学品や樹脂などの保管、輸送、流通加工などを行っています。

今回のM&Aで、センコーは、ナガセ物流を子会社化することで、化学品の保管・配送体制を強化でき、既存事業のさらなる拡大を図ることができます。また、国内外で事業を展開する NAGASE グループと関係を築き、ケミカル物流業界での認知度向上、商圏拡大を図る予定です。また、ナガセ物流はセンコーグループの傘下に入ることで、より安定的で、充実した物流サービスを提供していくことが可能となります。

 

Ⅳ.倉庫企業のM&A・事業承継のポイント

倉庫企業・事業を売却するとき、「できるだけ良い条件で売却したい」という方が多いと思いますので、その良い条件を獲得するためのポイントを解説します。

まず交渉を有利に進めるためにも、買い手が見るポイントを以下で説明します。

 

【買い手が見るポイント】

①倉庫業法
倉庫業は生産と消費を結ぶ産業として国民生活の基盤を支える極めて公共性の高い産業です。そのため、倉庫業法では「倉庫業を営もうとする者は、国土交通大臣の行う登録を受けなければならない」と規定し、正規に登録を受けた業者による倉庫業の適正な運営と倉庫証券の円滑な流通を確保することとしております。

また、倉庫業者としての登録を受けるためには「倉庫の種類毎に定められた施設・設備基準」を満たすとともに、事業を適切に管理運営するための「倉庫管理主任者」を選任し、その任にあたらせることが義務づけられていますので、まずは業法との順法性が問われます。

②DX取り組み
人手不足など様々な課題を抱える物流業界おいて業務効率化と課題解決のために物流DXに取り組む企業は増えてきています。

国土交通省でもDXを実現させるために、①AI・IoT等の新技術を活用した物流作業効率化事業への支援、②過疎地域等におけるドローンを活用した新しい配送形態の実用化、③サプライチェーン全体の合理化、などを促進していますが、個別企業での積極的な取組も、株式価値評価にあたり高く評価されます。

③料金設定
平成13年の倉庫業法改正により、倉庫保管料などについて事前届出制から事後届け出制に変更され、料金は荷主と倉庫会社が相対で自由に設定できるようになりました。これに伴い同業者間の価格競争が激化しており、価格競争に対する差別化要因が評価されます。

④人材獲得力
他の多くの業界と同様に、倉庫業界も人材不足が継続しています。また、この業界は、技術革新のスピードも速いので、、用地の取得、物流施設の開発、自動化、作業のマニュアル化のノウハウを持っている人材の流動性が高いという特徴があります。そのため、採用ルートの独自性(大学や大学院などとの提携)、従業員のエンゲージメントの向上など人材の維持と獲得のための独自性などが高く評価されます。

⑤坪当たり収益性
坪当たり収益性は、重要な経営指標のひとつです。これを向上させるには、半導体、医薬品など特殊な商品の保管など、高付加価値を提供することが重要ですが、ロケーション管理の巧拙も重視されます。

⑥クレーム、バグ(欠陥)対応
過去にどんなクレーム、バグがあったのか、どんな対応を行ったのか、状況説明できるようにリストを作成しておくと良いでしょう。

⑦従業員の定着率
現在人手不足が最大の経営リスクとなっているため、従業員の定着率が低い場合、原因が待遇にあるのか、労働環境にあるのか、など原因を突き止めておくと良いでしょう。

⑧社員の教育研修
質の高い従業員を確保するため、採用時における人材の評価方法、最新技術動向の教育など人材の質を確保するための取り組みが重要視されます。

 

【良い条件で売却するポイント】

①経営課題は伸びしろと考える
どのような倉庫企業でも何らかの経営課題を抱えています。まず売却の一番のポイントは、経営課題をネガティブなものとして捉えるのではなく、「伸びしろ」として捉えることです。つまり、自社で解決できない経営課題を解決してくれる買い手が「ベストパートナー」、イコール「良い条件を出してくれる相手」ということです。例えば、人材の採用に課題があれば、採用に強い買い手と組むべきですし、資金調達に課題があれば、資金に余裕がある買い手と組むことがM&Aで良い条件を引き出す重要なポイントとなります。

②赤字の原因を明らかにする
現在、事業が赤字、債務超過の状況にあっても、「赤字、債務超過だから売却できない」ということはありません。倉庫企業を売却するうえで、重要なのは赤字の原因を明らかにすることです。例えば、赤字の原因が人材不足にある場合、「もし人材の豊富な買い手と組めば、品質管理力や営業・マーケティング力はあるので必ず黒字転換できる」などと、きちんと伸びしろを最大限反映させた説明をすべきです。さらに、赤字の原因を解消できた状態の事業計画を準備しておけば、その伸びしろは買い手から高く評価されます。

③従業員の引き抜きを目的としたM&Aに注意
M&Aのプロセスを進めるうえで、買い手から従業員リストの提出を求められる場合があります。中には従業員の引き抜きを画策する買い手もいるため、個人名などの固有名詞は伏せてください。また、M&Aは従業員に与える影響が大きく、不安を感じる従業員は多いものです。従業員の離職につながらないよう、情報漏洩には注意してください。従業員にM&Aのことを開示するタイミングは最終契約書を締結した後が望ましいといえるでしょう。

④成約後は速やかに取引先・業提提携先に対する説明会を開催
倉庫企業の経営において、取引先・業務提携先との信頼関係は重要な要素です。買い手は既存の既存の取引先や業務提携先の反応を心配します。これらの取引先・提携先の理解を得るためにも、M&Aが完了した段階で速やかに説明会などを行い、買い手が安心できる企業であること、M&A前と運営は何も変わらないことを伝えましょう。

 

Ⅴ.まとめ

当社は、世界的に有名なREFINITIV(旧トムソンロイター)のM&A成約件数ランキングに9年連続ランクインしております。

また、豊富な譲り受けニーズを保有しており、2005年の設立(M&A業界では老舗)以来、蓄積してきた豊富な譲り受け希望企業のニーズを保有しています。

事業の今後の成長性を考慮した事業計画作成による譲渡価額最大化や、補助金・税制の申請支援、M&A後の相続税対策、資産運用などのご相談も承ります。

M&Aアドバイザリー会社では珍しく弊社には営業ノルマがないため、弊社の都合でM&A実行を急がせることはなく、ベストなタイミング・譲渡候補先をご提案いたします。

まずは、M&A・事業承継に関する事例やお話だけ聞いてみたいという方もお気軽にご連絡くださいませ。

 

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売り手経営者のM&Aによるメリット

Ⅰ.経営者個人のメリット

1. 創業者利潤の獲得
M&A(株式譲渡)による税金は約20%で、役員給与、賞与、贈与・相続による税率よりも大きなメリットがあります。手取現金を多く残したいということであれば、親族内承継よりもM&Aが一般的に有利です。

2.個人保証・担保の解除
買い手は一般的に売り手企業よりも規模が大きく、その分金融機関からの与信が大きくなります。したがってM&Aのタイミングで経営者の個人保証・担保は解除されます(借入金の一括返済または保証の引継ぎ)。親族内承継では、前の経営者の保証が解除されないケースや承継者に保証を新たに求めたり、新旧両経営者に保証が残るケースもあります。

Ⅱ.会社のメリット

1.グループ経営による財務、人材のバックアップ、ブランディングによる採用
大手企業のグループに統合することによりブランド力、信用力が向上し、金融機関から資金調達力、人材採用力、取引先との交渉力などが強化されるため、このグループ力を生かして業績が急上昇します。株式上場の夢も実現可能性が高くなります。

2.従業員の雇用継続とモチベーションの向上
中小企業は一般的にオーナー経営になっている場合が多いため、従業員の視点から処遇の改善、個人のやりがい(能力の向上、キャリアアップ)が見込めない状態になっている場合も少なくありません。グループ経営により、業績が向上し、個人経営から組織経営に脱皮し、個人のモチベーション、やりがい、生きがい、処遇などが確実に向上します。

 

本記事の執筆者

かえでファイナンシャルアドバイザリー株式会社_代表取締役_佐武伸

かえでファイナンシャルアドバイザリー株式会社
代表取締役
佐武 伸

 

兵庫県宝塚市出身。関西学院大学商学部卒。米国サンダーバード国際経営大学院卒(MBA)。
朝日監査法人(現あずさ監査法人)にて上場企業数十社の会計監査、システム監査、株式公開準備(IPO)プロジェクト等に参画。
その後、奥田公認会計士事務所で中堅・中小企業の国内・国外税務戦略立案、事業承継対策、IPO等の幅広いコンサルティング業務に従事。専門は、M&Aコンサルティング、企業評価、会計・税務コンサルティング。
2005年にかえでファイナンシャルアドバイザリー株式会社を設立、代表取締役に就任。
元中央大学ビジネススクール客員教授(M&A戦略)。

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