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介護福祉業のM&A | 良い相手と良い条件で成約するポイント

業種別M&A

慢性的な人手不足、法規制の強化、事業承継問題、DX対応の遅れなどを解決する戦略として、現在、介護福祉業界で中堅・中小企業を中心にM&Aが活発に行われています。

これは、M&Aによるグループ化により、資金調達力、人材獲得力、ブランド力、デジタル対応力の向上が売り手企業、買い手企業双方に与えるメリットが大きいからです。

そこで、本コラムでは、介護福祉業のM&Aで押さえたいポイントや成功の法則を分かりやすく解説します。

Ⅰ. 介護福祉業の市場規模と特徴

介護福祉業の市場規模は、2022年度は前年度比4.7%増の11兆8000億円、2023年度は同じく前年度比5.0%増の12兆4000億円と比較的高い成長率を予測しています。

この背景については、「2022~2023年にかけて団塊世代が後期高齢者となるため、サービス利用者数の急増と単価の上昇に伴い、介護保険市場は高い伸びとなる見込み」との分析を示しています。

一方、その先については2024年の介護報酬改定でそれほど高いプラス改定が期待できないとの前提に立ち、さらに後期高齢者の伸びも鈍化することから、2027年度の市場は13兆5000億円と、2022年度から年率2.7%増にとどまるとの見通しを示しています。

介護福祉業界は、以下のようにさまざまな形でサービスを提供しているという特徴があります。

・有料老人ホーム
・訪問介護事業
・グループホーム
・通所・短期入所介護事業
・老人保健施設
・特別養護老人ホーム など

 

Ⅱ.介護福祉業界のトレンド

介護福祉業界では、このように需要がしばらく伸び続ける成長市場と判断されているため、異業種からの参入や介護サービスの質を上げるために医療業界などとのM&Aが増えてきています。

また、大手事業者を主軸とした業界再編と報酬評価が高い中重度者への取り組みの強化が進展し、他方で稼働率が低迷する中~高価格の有料老人ホームが苦戦しています。

つまり、事業者の2極分化が進み、勝ち組が業界全体の成長率を引き上げる陰で、倒産が増加してきています。

そして、介護福祉業界の最大の懸念材料は慢性的な人手不足です。介護福祉分野の有効求人倍率が3倍超と全産業平均の1倍強を大幅に上回る水準で推移しているにもかかわらず、団塊世代の後期高齢者入りで介護福祉人材の需要は当面増加するのに対し、2025年度以降の現役世代の人口減に伴う就業者数急減が見込まれています。

ただ、人材不足の解消や介護の質向上のため国が取り組み始めているのがDXの推進です。その一つがLIFE(科学的介護情報システム)の利用とそれに伴う介護アウトカムの改善実現です。

この介護の科学化により必要人材の明確化やそれに伴う介護人材需要の適正化(最小化)が期待されています。

【参考】
「みずほ産業調査 日本産業の中期見通し—向こう5年(2023–2027年)の需給動向と求められる事業戦略—」

 

Ⅲ.介護福祉業のM&A事例

では、介護福祉業のM&A事例にはどのようなものがあるのでしょうか?

 

◆同業によるエリア拡大を目的とした事例

2023 年5月、株式会社ソラスト(以下「ソラスト」)は、ポシブル医科学株式会社(以下シブル医科学」)の株式を取得(子会社化)するため、株式譲渡契約を締結することについて決議しています。

ソラストの介護事業は、急速に高まる高齢化社会のニーズに応えるため、「自立支援と地域トータルケア」を理念に、住み慣れた地域での暮らしの中で複数のサービスを提供できるよう事業展開エリアの拡大と、エリア内での提供サービスの拡充に努めています。

これらの実現に向けて、2030 年には売上高 1,500 億円、介護サービスを提供するエリアを現在の約 3 倍にあたる 300 エリアに拡大し、全てのエリアで訪問介護、通所介護、居宅介護支援、グループホーム、有料老人ホーム他の施設を各 1 事業所以上運営することを長期経営ビジョンに掲げ、スピード感をもって事業展開エリアの拡大とエリア内の提供サービス拡充を進めるため、M&Aを積極的に活用しています。

ポシブル医科学は JR 西日本グループの一員として主に関西圏において、リハビリ型通所介護(デイサービス)を中心に 57 事業所(内 24 事業所はフランチャイズ)を展開し、相対的に要介護度が低い高齢者に対する「積極的自立支援」というコンセプトの下、科学的な根拠に基づいたサービスの提供を目指しています。

ポシブル医科学がソラストグループに加わることで、要介護度悪化時における切れ目のないサービス提供やフランチャインズ事業の強化等により「地域トータルケア」の実現に貢献するものと判断し、子会社化しています。

 

◆同業者による首都圏での規模拡大の事例

2023年5月、株式会社揚工舎(以下、「揚工舎」)は有限会社トータルケア陽だまり(以下、「トータルケア」)の全株式を譲り受け、子会社化しました。

揚工舎は、有料老人ホーム、デイサービス、訪問介護等の介護サービス事業や介護資格取得のための教育事業並びに介護人材の紹介・派遣事業の充実と拡大に取り組んでいます。

一方、トータルケアは神奈川県南足柄市にて住宅型有料老人ホーム事業、及び小田原市にてサービス付き高齢者向け住宅等を営み質の高い介護サービスを提供しています。

このM&Aは、揚工舎の首都圏を中心に業容拡大する戦略の実現のために実行されています。

 

◆異業種(警備大手)による介護事業の規模拡大目的とした買収事例

ALSOK(本社:東京都港区)は、2020年4月、介護事業を営む株式会社らいふ(以下「らいふ社」)及び食品検査事業を営む株式会社エムビックらいふ(以下「エムビックらいふ社」)の持株会社である株式会社らいふホールディングス(以下「らいふHD」)の全株式を取得する契約を締結しています。

ALSOKは、国や地方公共団体、各種金融機関、一般事業者向けに、多種多様な警備サービスを提供するほか、個人のお客様にもホームセキュリティをはじめ、安全安心と便利を提供しています。

現在、警備事業を起点に周辺分野への事業領域拡大にも取組んでおり、個人、特に高齢者に対する安全安心を提供するため、平成24年にALSOKケア株式会社を設立し介護事業に参入、その後、平成26年には株式会社HCM、平成27年にはALSOKあんしんケアサポート株式会社、平成28年には株式会社ウイズネット、更には平成30年に訪問マッサージの株式会社ケアプラスを子会社化し、介護及びその関連事業の強化に努めています。

らいふ社は、平成7年より高齢者支援事業を開始し、現在まで26年の介護事業の運営実績があり、主に高齢者施設・住宅事業を展開しています。同社は主に「ホームステーションらいふ」のブランド名で東京都、神奈川県等の首都圏に47施設、2,000室超を運営しており、首都圏における有力オペレーターとしてのポジションを確立しています。らいふ社のALSOKグループヘの参画は、グループ全体で6,500室規模の介護施設を有することとなり、デイサービス、訪問介護等を含め、質量両面にわたり強化されるため、相互の事業拡大に大いに貢献することを期待したM&Aです。

 

Ⅳ.介護福祉業のM&A・事業承継のポイント

介護福祉業の会社・事業を売却するとき、「できるだけ良い条件で売却したい」という方が多いと思いますので、その良い条件を獲得するためのポイントを解説します。

まず交渉を有利に進めるためにも、買い手が見るポイントを以下で説明します。

 

【買い手が見るポイント】

①入居者の属性

施設の稼働率が高くても、入居者の属性によっては収益力に大きく影響を与えます。

例えば、介護度の低い入居者が多いケースでは、収益力はよくありません。また、介護サービスを必要としていない入居者が多い有料老人ホームも収益力は低いと想定されます。

②契約方式・内容

有料老人ホームの場合は、そのタイプ(介護付き、住宅型、健康型)、契約方式(利用権方式、建物賃貸方式、終身建物賃貸方式)が詳細に検討されます。

入居者確保に際しては、契約方式と合わせて、入居一時金、月額利用料の設定も重要なため、近隣施設との料金比較や地域住民の所得水準などの市場調査が行われます。

③不動産の状況把握

介護福祉事業は、人材サービス事業という特徴とは別に不動産業という側面もあります。

建物の立地、修繕履歴、自己所有化、賃借などが確認されます。賃借の場合は、その契約内容が詳細に分析されます。

④クレーム対応

過去にどんなクレームがあったのか、どんな対応を行ったのか、状況説明できるようにリストを作成しておくと良いでしょう。

⑤従業員の定着率

現在人手不足が最大の経営リスクとなっているため、従業員の定着率が低い場合、原因が待遇にあるのか、労働環境にあるのか、など原因を突き止めておくと良いでしょう。

⑥社員の教育研修

質の高い従業員を確保するため、採用時の人材の評価方法、ビジネスマナー教育、最新技術に関する研修など人材の質を確保するための取り組みが重要視されます。

⑦コンプライアンスへの対応

介護福祉事業は規制が多く、設備、居室面積、職員配置などが労働福祉法、介護保険法で規定されています。これらの法律を遵守する組織体制の構築が重要になってきています。

 

【良い条件で売却するポイント】

①経営課題は伸びしろと考える

どのような介護福祉事業でも何らかの経営課題を抱えています。まず売却の一番のポイントは、経営課題をネガティブなものとして捉えるのではなく、「伸びしろ」として捉えることです。つまり、自社で解決できない経営課題を解決してくれる買い手が「ベストパートナー」、イコール「良い条件を出してくれる相手」ということです。例えば、人材の採用に課題があれば、採用に強い買い手と組むべきですし、資金調達に課題があれば、資金に余裕がある買い手と組むことがM&Aで良い条件を引き出す重要なポイントとなります。

②赤字の原因を明らかにする

「赤字だから売却できない」ということはありません。介護福祉を売却するうえで、重要なのは赤字の原因を明らかにすることです。例えば、赤字の原因が営業力の不足にある場合、「もし営業力のある買い手と組めば、人材は豊富にいるので必ず黒字転換できる」などと、きちんと伸びしろを反映させた説明をすべきです。さらに、赤字の原因を解消できた状態の事業計画を準備しておけば、その伸びしろが買い手から高く評価されます。

③従業員の引き抜きを目的としたM&Aに注意

M&Aのプロセスを進めるうえで、買い手から従業員リストの提出を求められる場合があります。中には従業員の引き抜きを画策する買い手もいるため、個人名などの固有名詞は伏せてください。また、M&Aは従業員に与える影響が大きく、不安を感じる従業員は多いものです。従業員の離職につながらないよう、情報漏洩には注意してください。従業員にM&Aのことを開示するタイミングは最終契約書を締結した後が望ましいといえるでしょう。

④成約後は速やかに利用者に対する説明会を開催

介護福祉事業の経営において、利用者との信頼関係は重要な要素です。買い手は既存の利用者の反応を心配します。利用者の理解を得るためにも、M&Aが完了した段階で速やかに利用者説明会を行い、買い手が安心できる企業であること、M&A前と運営は何も変わらないことを伝えましょう。

 

Ⅴ.まとめ

当社は、世界的に有名なREFINITIV(旧トムソンロイター)のM&A成約件数ランキングに9年連続ランクインしております。

また、豊富な譲り受けニーズを保有しており、2005年の設立(M&A業界では老舗)以来、蓄積してきた豊富な譲り受け希望企業のニーズを保有しています。

事業の今後の成長性を考慮した事業計画作成による譲渡価額最大化や、補助金・税制の申請支援、M&A後の相続税対策、資産運用などのご相談も承ります。

M&Aアドバイザリー会社では珍しく弊社には営業ノルマがないため、弊社の都合でM&A実行を急がせることはなく、ベストなタイミング・譲渡候補先をご提案いたします。

まずは、M&A・事業承継に関する事例やお話だけ聞いてみたいという方もお気軽にご連絡くださいませ。

 

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売り手経営者のM&Aによるメリット

Ⅰ.経営者個人のメリット

1. 創業者利潤の獲得
M&A(株式譲渡)による税金は約20%で、役員給与、賞与、贈与・相続による税率よりも大きなメリットがあります。手取現金を多く残したいということであれば、親族内承継よりもM&Aが一般的に有利です。

2.個人保証・担保の解除
買い手は一般的に売り手企業よりも規模が大きく、その分金融機関からの与信が大きくなります。したがってM&Aのタイミングで経営者の個人保証・担保は解除されます(借入金の一括返済または保証の引継ぎ)。親族内承継では、前の経営者の保証が解除されないケースや承継者に保証を新たに求めたり、新旧両経営者に保証が残るケースもあります。

Ⅱ.会社のメリット

1.グループ経営による財務、人材のバックアップ、ブランディングによる採用
大手企業のグループに統合することによりブランド力、信用力が向上し、金融機関から資金調達力、人材採用力、取引先との交渉力などが強化されるため、このグループ力を生かして業績が急上昇します。株式上場の夢も実現可能性が高くなります。

2.従業員の雇用継続とモチベーションの向上
中小企業は一般的にオーナー経営になっている場合が多いため、従業員の視点から処遇の改善、個人のやりがい(能力の向上、キャリアアップ)が見込めない状態になっている場合も少なくありません。グループ経営により、業績が向上し、個人経営から組織経営に脱皮し、個人のモチベーション、やりがい、生きがい、処遇などが確実に向上します。

 

本記事の執筆者

かえでファイナンシャルアドバイザリー株式会社_代表取締役_佐武伸

かえでファイナンシャルアドバイザリー株式会社
代表取締役
佐武 伸

 

兵庫県宝塚市出身。関西学院大学商学部卒。米国サンダーバード国際経営大学院卒(MBA)。
朝日監査法人(現あずさ監査法人)にて上場企業数十社の会計監査、システム監査、株式公開準備(IPO)プロジェクト等に参画。
その後、奥田公認会計士事務所で中堅・中小企業の国内・国外税務戦略立案、事業承継対策、IPO等の幅広いコンサルティング業務に従事。専門は、M&Aコンサルティング、企業評価、会計・税務コンサルティング。
2005年にかえでファイナンシャルアドバイザリー株式会社を設立、代表取締役に就任。
元中央大学ビジネススクール客員教授(M&A戦略)。

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