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人材派遣業のM&A | 良い相手と良い条件で成約するポイント

業種別M&A

慢性的な人手不足、法規制の強化、事業承継問題、DX対応の遅れなどを解決する戦略として、現在人材派遣業界で中堅・中小企業を中心にM&Aが活発に行われています。

これは、M&Aによるグループ化により、資金調達力、人材獲得力、ブランド力、デジタル対応力の向上が売り手企業、買い手企業双方に与えるメリットが大きいからです。

そこで、本コラムでは、人材派遣業のM&Aで押さえたいポイントや成功の法則を分かりやすく解説します。

Ⅰ. 人材派遣業の市場規模と特徴

人材派遣業の市場規模ですが、派遣会社の支店や営業所を含めた許可事業所数の合計は2021年6月時点で42,448ヶ所、2020年度の年間売上高の合計は8兆6209億円です(一般社団法人日本人材派遣協会)。

日本における派遣社員の人数は142万人で役員を除く雇用者5671万人に占める割合は約2.5%です。他の雇用形態では、正社員が3594万人、パート・アルバイトは1461万人、契約社員は280万人です(総務省労働力調査2021年度)。

2021年度の最も多い職種は事務職が48万人(34.3%)、次いで製造関連の35万人(25.0%)で、男女別でみると、女性は事務職が半数を占め、男性は製造関連と運輸・清掃・包装などが多くなっています(総務省労働力調査2021年度)。

 

Ⅱ.人材派遣業のトレンド

人材派遣業界の今後については、「少子高齢化・人口減少による業界規模縮小」、「グローバル人材の活用」「キャリア形成の在り方の自由化」という3つのポイントがあります。

1.少子高齢化・人口減少による業界規模縮小

人が関係する人材派遣業界においては、人口減少は致命的であり、今後時間の経過とともに供給は少しずつ減少し、業界規模も緩やかに縮小していくといわれています。

また、高齢者が増加し、仕事に従事できない世代が増えることで、さらに労働人口は減り、業界規模縮小に拍車がかかる可能性もあります。

高齢者向けの就労ビジネスが注目されているように、今後はさらに老齢世代になっても働き続けられる仕組みづくり、社会づくりが求められています。

2.グローバル人材の活用がカギ

人口減少は食い止められないため、国内の資本、つまり人材ばかりをあてにせず、グローバルな資本、海外からの人材活用を視野に入れる企業は増えています。

現在でも外国人労働者に関する法律は整備されつつありますが、法整備の進行に伴い、今後さらに外国人労働者の受け入れは過熱が予想されます。

3.キャリア形成の在り方の自由化

現在、副業が解禁になったことで、仕事の選択肢は増え、本業と副業を同じバランスでおこなう人も増えています。

従来の副業ではなく、本業の仕事と同程度のウエイトがある「複業」「パラレルワーカー」という言葉も広がりつつあり、仕事の在り方はもっと自由になることが予想されています。

現在では企業に就職し、企業で働くというスタイルが基本ですが、フリーランスのように企業に所属しない、個人としての働き方も注目されています。

人材派遣だけではなく、フリーランスや副業者と企業をマッチングできるようなビジネスモデルを確立することができれば、人材派遣会社の収益モデルは多角化できるでしょう。

このように人材派遣業界は変化の過渡期にあり、競走の激化が避けられないため、今後M&Aによる業界再編が注目されています。
(「就活の未来」のHPを参考に加筆修正。shukatsu-mirai.com/archives/104250)

 

Ⅲ.人材派遣業のM&A事例

では、人材派遣業のM&A事例にはどのようなものがあるのでしょうか?

◆銀行グループによる異業種参入の事例

2023年2月、株式会社しずおかフィナンシャルグループ(以下、「しずおかFG」)は、ソフトウエア開発と人材派遣を手がける株式会社ティージェイエス(以下、「TJS」)を完全子会社化しました。

TJS は、1979 年の創業以来、ソフトウェア開発事業、人材派遣事業等を展開しています。ソフトウェア開発事業では、地域のトップリーダーとしてより質の高い情報システム・ソリューションを提供しており、人材派遣事業においても、5,000 名規模の登録スタッフを抱える静岡県内大手の人材派遣会社として、豊富な対応実績や顧客基盤を有しています。

今般のM&Aで、しずおかFGの営業基盤と TJS の強みである IT・DX、人材面のサポート力を掛け合わせ、地域の課題解決を通じて、持続可能な地域社会の実現を目指しています。

なお、本件は、2021 年 11 月の改正銀行法施行後、しずおかFGにおいて他業銀行業高度化等会社(異業種参入)許可を取得した初の事例です。

◆同業による規模拡大を目的とした事例

2023年1月、株式会社揚工舎は、株式会社アルティーユスタッフの発行済全株式を取得し 100%子会社化すると共に、同社が行う第三者割当増資について、その全額を引き受けることを決議しています。

揚工舎は、有料老人ホーム、デイサービス、訪問介護等の介護サービス事業や介護資格取得のための教育事業並びに介護人材の紹介・派遣事業を展開しています。

株式会社アルティーユスタッフは主に介護施設や医療機関の要望に対して看護師・介護士を派遣する事業を営んでいます。

今回のM&Aは、揚工舎の展開する介護人材の紹介・派遣事業の業容拡大と業務運営の更なる効率化を目的としています。

◆異業種(物流大手)による人材確保目的とした買収事例

2022年4月、センコーグループホールディングス株式会社(以下「センコーGHD」)は、在留外国人の人材派遣を行うKyoudou Project 株式会社(以下「キョウドウ・プロジェクト」)の全株式を取得し、グループ化しています。

キョウドウ・プロジェクトは、茨城県南部を拠点に関東地区の大手食品加工会社や金属製造会社など約40社へ外国人派遣を行っています。また社宅の貸し出しなど生活面をサポートし、働きやすい環境を整えることで、外国人からの信頼も厚く、高い求人力を誇っています。

センコーGHDは、物流、商事、ライフサポート、ビジネスサポート、の4つを主な事業としており、2021年10月に愛知県内で同じく外国人の人材派遣などを行う、株式会社セルフ・グロウ(本社:名古屋市)もグループ化していました。

今回のM&Aは、キョウドウ・プロジェクトのグループ化により、さらに外国人の派遣事業を拡大するとともに、関東地区にあるセンコーグループの大型物流拠点へ就労可能な外国人の派遣を進めることで、現場で働く人材の確保を行う考えです。

 

Ⅳ.人材派遣業のM&A・事業承継のポイント

人材派遣業の会社・事業を売却するとき、「できるだけ良い条件で売却したい」という方が多いと思いますので、その良い条件を獲得するためのポイントを解説します。

まず交渉を有利に進めるためにも、買い手が見るポイントを以下で説明します。

【買い手が見るポイント】

①データの整備状況
登録人材の属性、スキル、希望条件などのデータや求人企業の受注、求人情報などのデータが整備されているか否かを事前に確認しておきましょう。

②請負・アウトソーシング
労働者派遣法の規制を受けず、届け出や許可を必要としない「業務代行」や「業務請負」があります。派遣禁止業務に人材を派遣する目的で、偽ってこれらの請負契約の形態にするいわゆる「偽装請負」がないかチェックしておく必要があります。

③派遣先企業の事業特性
派遣会社は、派遣先企業の要請に応じて人材を派遣するため、派遣先企業の事業特性や業績によって受注量が影響されます。したがって事業、業績の安定性を確保するためにも、多種多様な業種の派遣先と取引ができているかどうか、などが評価されます。

④クレーム対応
過去にどんなクレームがあったのか、どんな対応を行ったのか、状況説明できるようにリストを作成しておくと良いでしょう。

⑤従業員の定着率
現在人手不足が最大の経営リスクとなっているため、従業員の定着率が低い場合、原因が待遇にあるのか、労働環境にあるのか、など原因を突き止めておくと良いでしょう。

⑥派遣社員の教育研修
質の高い派遣労働者を安定的に確保するため、採用時の人材の評価方法、ビジネスマナー教育、最新技術に関する研修など人材の質を確保するための取り組みが重要視されます。

⑦コンプライアンスへの対応
2012年の日雇い雇用原則禁止、グループ企業派遣禁止など事業に大きな影響を及ぼす法制度の改正がされており、これに対応してコンプライアンス遵守が重要になってきています。

【良い条件で売却するポイント】

①経営課題は伸びしろと考える
どのような人材派遣会社でも何らかの経営課題を抱えています。まず売却の一番のポイントは、経営課題をネガティブなものとして捉えるのではなく、「伸びしろ」として捉えることです。つまり、自社で解決できない経営課題を解決してくれる買い手が「ベストパートナー」、イコール「良い条件を出してくれる相手」ということです。例えば、人材の採用に課題があれば、採用に強い買い手と組むべきですし、資金調達に課題があれば、資金に余裕がある買い手と組むことがM&Aで良い条件を引き出す重要なポイントとなります。

②赤字の原因を明らかにする
「赤字だから売却できない」ということはありません。人材派遣会社を売却するうえで、重要なのは赤字の原因を明らかにすることです。例えば、赤字の原因が営業力の不足にある場合、「もし営業力のある買い手と組めば、人材は豊富にいるので必ず黒字転換できる」などと、きちんと伸びしろを反映させた説明をすべきです。さらに、赤字の原因を解消できた状態の事業計画を準備しておけば、その伸びしろが買い手から高く評価されます。

③従業員の引き抜きを目的としたM&Aに注意
M&Aのプロセスを進めるうえで、買い手から従業員リストの提出を求められる場合があります。中には従業員の引き抜きを画策する買い手もいるため、個人名などの固有名詞は伏せてください。また、M&Aは従業員に与える影響が大きく、不安を感じる従業員は多いものです。従業員の離職につながらないよう、情報漏洩には注意してください。従業員にM&Aのことを開示するタイミングは最終契約書を締結した後が望ましいといえるでしょう。

④成約後は速やかに取引先説明会を開催
人材派遣会社の経営において、取引先との信頼関係は重要な要素です。買い手は既存の取引先の反応を心配します。取引先の理解を得るためにも、M&Aが完了した段階で速やかに取引先説明会を行い、買い手が安心できる企業であること、M&A前と運営は何も変わらないことを伝えましょう。

 

Ⅴ.まとめ

当社は、世界的に有名なREFINITIV(旧トムソンロイター)のM&A成約件数ランキングに9年連続ランクインしております。

また、豊富な譲り受けニーズを保有しており、2005年の設立(M&A業界では老舗)以来、蓄積してきた豊富な譲り受け希望企業のニーズを保有しています。

事業の今後の成長性を考慮した事業計画作成による譲渡価額最大化や、補助金・税制の申請支援、M&A後の相続税対策、資産運用などのご相談も承ります。

M&Aアドバイザリー会社では珍しく弊社には営業ノルマがないため、弊社の都合でM&A実行を急がせることはなく、ベストなタイミング・譲渡候補先をご提案いたします。

まずは、M&A・事業承継に関する事例やお話だけ聞いてみたいという方もお気軽にご連絡くださいませ。

 

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売り手経営者のM&Aによるメリット

Ⅰ.経営者個人のメリット

1. 創業者利潤の獲得
M&A(株式譲渡)による税金は約20%で、役員給与、賞与、贈与・相続による税率よりも大きなメリットがあります。手取現金を多く残したいということであれば、親族内承継よりもM&Aが一般的に有利です。

2.個人保証・担保の解除
買い手は一般的に売り手企業よりも規模が大きく、その分金融機関からの与信が大きくなります。したがってM&Aのタイミングで経営者の個人保証・担保は解除されます(借入金の一括返済または保証の引継ぎ)。親族内承継では、前の経営者の保証が解除されないケースや承継者に保証を新たに求めたり、新旧両経営者に保証が残るケースもあります。

Ⅱ.会社のメリット

1.グループ経営による財務、人材のバックアップ、ブランディングによる採用
大手企業のグループに統合することによりブランド力、信用力が向上し、金融機関から資金調達力、人材採用力、取引先との交渉力などが強化されるため、このグループ力を生かして業績が急上昇します。株式上場の夢も実現可能性が高くなります。

2.従業員の雇用継続とモチベーションの向上
中小企業は一般的にオーナー経営になっている場合が多いため、従業員の視点から処遇の改善、個人のやりがい(能力の向上、キャリアアップ)が見込めない状態になっている場合も少なくありません。グループ経営により、業績が向上し、個人経営から組織経営に脱皮し、個人のモチベーション、やりがい、生きがい、処遇などが確実に向上します。

 

本記事の執筆者

かえでファイナンシャルアドバイザリー株式会社_代表取締役_佐武伸

かえでファイナンシャルアドバイザリー株式会社
代表取締役
佐武 伸

 

兵庫県宝塚市出身。関西学院大学商学部卒。米国サンダーバード国際経営大学院卒(MBA)。
朝日監査法人(現あずさ監査法人)にて上場企業数十社の会計監査、システム監査、株式公開準備(IPO)プロジェクト等に参画。
その後、奥田公認会計士事務所で中堅・中小企業の国内・国外税務戦略立案、事業承継対策、IPO等の幅広いコンサルティング業務に従事。専門は、M&Aコンサルティング、企業評価、会計・税務コンサルティング。
2005年にかえでファイナンシャルアドバイザリー株式会社を設立、代表取締役に就任。
元中央大学ビジネススクール客員教授(M&A戦略)。

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