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アパレル業界のM&A(事業承継)を検討する場合_岡村 新太

こんにちは。かえでFA岡村です。今日は、アパレル業界のM&Aについてお話したいと思います。アパレル業界といっても、洋服を製造するメーカーなのか、糸を調達するような素材産業に属する事業者なのか、小売りなのかにより論点が異なります。すべてを網羅できるわけではありませんが、本日はアパレル業界の中でもアパレル製造業・アパレルの小売業に関する大きなトレンドを解説させて頂き、事業承継(M&A)を検討する方にとって有益なお話になるようにしたいと思います。では、始めていきます。

1.アパレル業界の市場規模とトレンド

■市場規模はどうなっているのか

まず、アパレル製造業の市場を確認していきます。アパレル製造業は、2010年に1兆2千億円程あった市場が、2015年において7,585億円まで縮小しています。

※出典:アパレル業界の動向とカラクリがよ~く分かる本【第4版】秀和システム社より弊社作成

特にアウター製造業(ジャケットやコート等)の落ち込みが激しいようで、5年で約2,500億円もの市場が消失してしまったようです。アパレル卸売市場についても同様の動きで、2010年に約10兆円程あった市場が、2015年には約8兆円まで縮小しています。特に、婦人服関係が落ち込みが激しい状況です。
一方で、アパレル小売市場になると、少し状況が異なるようです。2010年に9兆7千億円の市場だったものが、2015年には10兆5千億円まで回復しています。

※出典:アパレル業界の動向とカラクリがよ~く分かる本【第4版】秀和システム社より弊社作成

これは、2010年に東日本大震災をうけたものが戻したともいえるかもしれないのですが、構成比を見ると違うものが見えてきます。子供服やスポーツウェア市場が躍進しているのです。また、販売チャネルも変化が見られており、百貨店や量販店での販売が減少する一方で、EC系は伸ばしています。
このように、大きな視点でみると市場は減少傾向にあるのですが、専門分野であったり、何処で売るのか、を考え直すと成長余地がある、巨大な市場だと考えられます。

■アパレル業界の特徴

アパレル業界の特徴としては、原料の調達・生産、商品の生産、流通の3工程がそれぞれ役割分担されているという点です。普通の製造業でしたら、この工程は1社で行うイメージがございますが、アパレル業界は伝統的に分業が進んでいたようです。これが、コスト高の要因になっていて、ユニクロ社やZARA社等のSPAを手掛ける事業者の登場により、業界の構造が大きく変化しており、結果採算が取れない事業者が増えています。紡績、染色に携わる事業者はこの構造改革によって、煽りを受けている状態ですし、服飾資材製造の事業者についても、いち早く海外生産にかじを切ったものの、今度はグローバルな競争に巻き込まれ苦しい事業者も多いようです。小売の事業者も在庫過多になりがちで、苦しい事業者が多い印象がございます。

■上手くいっている事業者は

一方で、上手くいっている事業者はどのような活動をしているのでしょうか。例えば、主な販路をオフラインからオンラインに変えた事業者はそれに該当するでしょう。早くからSPA、OEMに切り替えた事業者も上手くいっていることが多いでしょう。活路を国内問わず、世界を視野にブランド展開を行っている事業者もございます。小職が存じ上げている一例をご紹介しますと、せーの社が展開するうさぎのブランド『MOONCHASER』はinstagramやtwitterを活用したアジア圏を取り込もうとした素晴らしい事例の一つでしょう。また、Youtuberの躍進も一つの事例です。Youtuberのげんじさんが展開する『LIDNM』はオンラインで爆発的な勢いがございます。

更に、所謂モノを売るのではなく、ライフスタイルの提案であったり、ブランドイメージで勝負するような、コト消費の提案が上手な事業者も、底堅く成長されている印象です。代表格がサザビーリーグ社でしょう。アパレルだけでなく雑貨であったり、飲食だとハンバーガーのSHAKE SHACK、かつてはスターバックスも運営されていました。ビームス社も従業員の皆様が日々ブログ発信等を行い、消費者との距離感を近くすることで上手くいっている事業者だと思います。

以上のように繰り返しとなりますが、全体傾向としては縮小にあっても、大きな市場ですので、細分化されたニーズに合致するサービスを提供できれば、爆発的な伸びが期待できる業界でもある、といえるかと思います。

 

2.アパレル業界のM&Aの事例

では、アパレル業界のM&Aはどういった事例があるのでしょうか?自社の直接的な競合というよりも、事業ドメインを広げるためのM&A事例が多い印象です。それでは見ていきましょう。

■フロネシス・パートナーズ社によるメンズブランドFLAVA社のM&A事例

フロネシス・パートナーズ社は、国内投資ファンドの1社です。FLAVA社への投資理由は、ECを中心としたビジネスを展開していたこともあり、成長可能性に魅力を感じたためのようです。ECを主戦場にしたアパレルブランドはまだまだ数が多いとは言えないと思いますので、投資ファンドの力を借りて成長を目指すM&A事例がもっとでてくるかも知れません。

■小泉グループ社によるレナウン社ブランド『ダーバン等』のM&A事例

小泉グループ社は、アパレルの卸やブランド『ゴールデンベア』等複数のブランドを展開する事業者です。レナウン社の一部ブランドを承継した理由は、その伝統や販路に価値を見出したと思われます。小職の意見となりますが、アパレル業界においては、製造もブランドを展開する事業者も私的整理や法的整理を活用したM&Aが今後賑わせると思います。この記事の原稿をまとめている間にも、ブランド『ストラスブルゴ』を展開するリデア社が、ワールド社と日本政策投資銀行が出資する投資会社と八木通商社のタッグでM&Aされることがリリースされていました。

再生型のM&Aをきちんと対応できるM&A業者や事業者が大きな飛躍を遂げる時がくるのかもし知れません。

■ワールド社による周辺領域へのM&A事例

大手アパレル事業者のワールド社の動きにも注目です。少し前のM&A事例となりますが、

2017年に家具や雑貨の販売を手掛けるアスプルンド社にM&Aを実行、2018年4月にはファッションレンタルサービスを提供するオムニス社にもM&Aを実行、また同月に古着や宝飾品の買取を行うティンパンアレイ社にもM&Aを実行し、アパレル業の周辺を強化する動きを精力的に行っています。

従来のモノづくり事業者から事業ドメインを変化させて、ライフスタイル全体を提案できるようになろうとする動きはアパレル業界に限らず活発になっていますが、良い事例の一つだと思います。

■大手通販事業者ベルーナ社によるマキシム社のM&A事例

ベルーナ社による、マキシム社のM&A事例も注目です。ベルーナ社は誰もが知る通販事業者で、中高年の女性が主要ターゲット層でもあり、マキシム社のターゲット層である若い女性層の獲得やデジタルに強いという特徴を高く評価され、M&Aを実行されたようです。

このように自社の事業ドメインの周辺に参入する場合は、M&Aを検討するというのは非常に良いと思います。

※2020年11月25日付のIRで中止が発表されましたが、今後も同様の動きが起こりえると考えます。

■コナカ社によるサマンサタバサ社のM&A事例

コナカ社は、紳士服でお馴染みの会社様ですが、2019年9月にサマンサタバサ社に対しM&Aを行う旨を発表しています。サマンサタバサ社は、若い女性向けにバッグやジュエリーの販売中心に展開してきた事業者です。事業ドメインを広げる、シナジーを見越してのM&Aとなったようです。

 

3.売却を検討するにあたり

さて、事例を複数見てきたところで、M&A(事業承継)を検討する上でポイントとなる所を見ていきましょう。

【アパレルブランドを展開する小売りの場合】

まず、この分野から見ていきましょう。小職の経験を踏まえて申し上げると、

  • 取り扱うブランドは知名度あるのか
  • 在庫は適切に管理できているのか
  • EC化がどこまでできているのか
  • 社内で企画、デザインができるか
  • 店舗の立地はどうなっているのか

これらが大きな論点になると思います。

■ブランドに知名度があるのか

そもそも論として、一定の知名度がないブランドを引き継ごうとはなりづらいです。更に、女性向けなのか、男性向け、ニッチなものなのか等ジャンルによっても評価が変わります。小職の感触ですと、女性向けはなかなか取組が難しいことがございます。これは、女性のアパレルの流行速度が速いことに起因していると考えています。

男性向けは流行の変化が女性向けのものよりも緩やかである分、興味を持ってもらえる機会が多いと思いますが、やはり流行が終わってしまったものを取り扱う事業だったりしますと、評価がしづらいです。

■在庫は適切に管理されているのか

アパレルの卸や小売り業者で論点になるのが、在庫です。この在庫管理というのは、簿価に計上していますから大丈夫です、という話ではなく、季節ごとに仕入する在庫がきちんと販売できているのかをチェックするということです。

季節により仕入するものは異なるかと存じますが、会計上の在庫数値が月商の何倍程度あるのかは、一番最初に見るポイントだと思います。在庫が月商の3ヶ月や4か月あるというのは、例えばオールシーズンのものを中心に取り扱わないのであれば、違和感があるのがイメージできますよね?

■EC化は進んでいますか?

アパレル業界の特徴になるのかもしれませんが、EC比率がまだまだ低い業種であるなあと思います。EC化率が高いというのは、それだけ今のトレンドに乗っていることでもあり、買い手がそれができていなければお伝えすべきメリットになります。また、社内にEC人材がいるのか、いるとしてどれくらいの仕事ができるのかもポイントです。デジタルマーケティングは外注にせず、自社で運用ができていればベストですが、売上に占めるEC率が20%を超える勢いで、更に成長が見込めるとお考えになるのであれば、魅力に見えると思います。

■社内で企画、デザインができる人はいますか?

社内で企画、デザインができる人がいるのか、要は本部部門の人数についても、論点になると思います。過剰に抱えているのであれば問題ですし、素晴らしい人材なのであれば辞められては困る人材ですから、慎重に対応していく必要がございます。

■立地はどうなっていますか?

店舗を展開されている場合、路面店が多いのか、SC中心なのかでも評価がか分かれると思います。SCは集客力としては魅力的ですが、競合もどんどん出てくるために、今は良い業績でも次の年は変わるといったことが起こり得るためです。路面店においても、同じことが言えますが、例えば都内のファッション発信地であるような場所に何年も店を構えているのであれば、一定の評価は得られるでしょう。

【アパレルの製造系事業者の場合】

次に、アパレルの製造系の事業者の場合についても、見ていきます。

■どこと取引がありますか?

国内を中心に展開される事業者がほとんどだと思いますので、どのような取引先を有するのかは、大事な論点になります。業界の中でも要求水準の高い事業者と深い取引があるのであれば、それはクオリティの高いものが作れるという証明になるでしょう。勿論、採算がきちんととれているかが重要です。

■何が得意ですか?

得意な分野がどのようなものなのか、整理してみてください。売上構成から整理すれば、何が得意なのかは分かりやすいとは思うのですが、以外と整理されていないものです。

■従業員の構成

働いている従業員の皆様の構成はどうなっていますか?よくあるのが、家族や親族がほとんどの会社のケースです。イタリアに似ているという話を聞いたことがあるのですが、国内のアパレル製造業の多くは、血縁者で行っていることが多いため、M&Aを検討する場合は、誰がどのような役割を担っているのか、まず整理してみましょう。決して、駄目ということではなくて、寧ろ、きちんと売却への整理ができれば小職は魅力的だと思います。

 

4.終わりに

如何でしたでしょうか?アパレル業界は、非常に厳しい現実を突きつけられている業界であることは事実です。しかしながら、上手く切り抜け、成長を遂げている会社も多数ございます。アパレル業界単体でビジネスを考えるという発想ではなく、冒頭でもご説明差し上げた、コトを売るやり方をどこまで突き詰められるのか、これがこの業界に求められていることだと思います。だからこそ、アパレル業界やその周辺領域は今後、M&Aが盛んになると考えています。

ですから、M&A(事業承継)を検討するオーナー経営者様に申し上げたいのは、状況を悲観するのではなく、まずは会社の棚卸から始めてみましょう、ということです。

 

かえでファイナンシャルアドバイザリー株式会社

マネージャー マーケティング担当

上級ウェブ解析士

岡村 新太 Arata Okamura

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