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会社を売りたい(M&A/事業承継)と思ったらまず考えて欲しいこと_岡村 新太

こんにちは。かえでFA岡村です。昨今、事業承継という言葉がメディアで大きく取り上げられるようになりました。小職も業界の片隅におり、事業承継型M&Aの盛り上がりを目の当たりにしております。
そこで今日は、中堅・中小企業の経営者様に、会社を売りたい(M&A/事業承継)と思ったらまず確認して欲しいことを小職なりにまとめてみました。内容は長いし少し辛辣かもしれません。しかしながら、実体験をもとに述べますので、参考にしてみてください。

はじめに

事業承継の問題を解決するM&Aを生業にする事業者は日本M&Aセンター社、ストライク社、MACP社と複数上場しており、いわゆる事業承継型M&Aの勢いは止まりそうにありません。また、M&Aのサービスを提供する事業者もすさまじい勢いで増えたと実感しています。

中小企業経営者の平均年齢は上昇の一途であり、中小企業庁のレポートによれば、今後数十万人の経営者が引退時期にさしかかると言われています。まだまだ、事業承継問題は、これから盛り上がるということです。

一方で、決して顧客ファーストとはいえないことも散見されるようになりました。手数料の徴求方法は勿論、経営者様の中には、希望しない売却額であれよあれよと契約してしまった方もいらっしゃるかもしれません。また、M&A業者から大量のDMや電話セールスが来ていたり、試しに面談するものの、本当に自社のことを考えた提案なのか分からない方も多くいることでしょう。

小職は、この業界に入り2年半ほど経ちます。上席の元で対応したもの、自身で提案を行いクライアントと契約し、クロージングまで至った案件は累計で10件程になりました。関わった案件の9割は売却に関するものになり、盛り上がりを見せる今の事業承継型M&Aに群がる事業者については、弊社含めて思うことがあります。

そこで今日は、中堅・中小企業の経営者様に、会社を売りたい(M&A/事業承継)と思ったらまず確認して欲しいことを小職なりにまとめてみました。内容は長いし少し辛辣かもしれません。しかしながら、実体験をもとに述べますので、参考にしてみてください。

1.会社を売却するにしても順番があります

  • 親族に相談は?

会社を売却すると決めるにあたり、順番立てて整理する必要があります。まず初めに、親族に相談されましたか?小職が、実際に売却を検討する経営者と面談する中で意外と多いのが、親族には本気で相談したことがないということです。

親族であれば、会社のことは良く分かっています。ですから、第三者に事業承継を行うよりもスムーズな点がございます。親族内で事業承継を行うのであれば、下記のような手順になるかと思います。

【親族内事業承継のプロセス】

  1. 後継者を決める
  2. 後継者を育成する
  3. 社内・社外で空気を作る
  4. 株式・経営の承継へ

※それぞれに論点がありますので、詳細は平成28年に中小企業庁が作成した『事業承継ガイドライン』を活用ください。

このように記載すると簡単に見えますが、実際は凄く時間もかかるし難しいです。後継者を決めるといっても、兄弟が複数いたらそこで揉めないようにする必要がありますし、後継者を育成するのであれば、一旦事業を新規で作らせたり、失敗させたりする必要があると思いますから、10年スパンで考える必要があることは、容易に想像できるかと思います。もちろん、資産の承継にあたりタックスプランニングも重要です。

しかしながら、価値観の共有という点では、第3者に事業承継するよりも、はるかにしやすいという利点がございます。別項で記載しますが、創業者に近い方が事業承継するという最大のメリットは、この点に尽きると思います。

まずは、親族内で後継者がいないのか、きちんと検討してみてください。

  • 社員への承継

親族内に適切な人物がいない、という場合であれば、社員に承継するということも検討してください。
社員に承継するメリットは、親族への承継と同じように、今までの流れを理解しており、創業者の思いを正しく承継できるという点だと思います。

但し、承継するにしても大抵の方は経営の部分を把握されているわけではないでしょうから、親族の方と同様、後継者として育成していく必要がありますし、また、株式の承継といったハード面の問題もクリアする必要があります。この株式というのは非常に厄介な論点になると思います。株は自分が持ったままで、後継者は動いてくれると思いますか?動きません。
相続税評価上の株式価値が高い場合は、経営の承継と株式の承継を両輪で進める必要があります。
これも、一朝一夕でできる話ではないのです。

  • 第三者への譲渡

会社内に引き継げそうな人間がいないと確定して初めて、第三者への売却(M&A/事業承継)を検討することになります。今流行っている、事業承継型M&Aというものです。
事業承継型M&Aでは、様々な点が論点となりますが、まずは、相場というものを見ていきましょう。

2.中堅・中小企業の値段の相場

  • EV/EBITDAの5倍程度

最初に結論を申し上げると、中堅・中小企業の取引対価は、EBITDA(営業利益+減価償却費)の最大5倍程度になることが大半です。最大が、です。

事例を考えてみましょう。製造メーカーで年商5億円、営業利益3、000万円の会社の事業承継で考えてみます。

事例:ある製造メーカー ※キーポイントを記載

▼貸借対照表

資産 2億5千万円      

内預金 1億円

負債・純資産 2億5千万円

内借入  5千万円

純資産 1億円・・・①

▼収益性

営業利益 3千万円×5年分=1億5千万円・・・②

合計 2億5千万円・・・①+②

営業利益が3千万円ですから、5年分として1億5千万円、純資産が1億円あるので、合計2億5千万円が取引対価になると思いますか?なりません。

そうならないことが大半です。あくまでも、本当に収益力が継続するものなのかどうかがポイントで、単純に過去の実績を加算すること自体は、簡単ですが壊れやすいロジックだからです。また、創業者がいなくなる会社の収益力ほど、過去のデータがあてにならないものだと思います。

ここまで読まれた方は、何て辛辣なことを言うのか、とお感じになられるかもしれません。しかしながら多くの経営者が、ただDMや営業をかけてきた人の意見を鵜呑みにし、とりあえず買い手候補者と面談し、なんとなく空気に乗せられ売却してしまっているので、敢えて申し上げました。

ありもしない値段の提示をされ、高揚し、話を進めるけれども最初に提示を受けた金額になることはなく、何処かで折れて売却する。こんなはずじゃなかったといって相談に来る方を沢山見てきました。

この事例でいくならば、せいぜい1億円~1億3千万円が適正な価格帯でしょう。

EBITDAの3倍前後の価格ということです。

尚、企業価値評価の算定手法は複数ございます。EV/EBITDA倍率を採用したのは、会社の収益力に着眼し使いやすいからです。企業価値は、下記のように求めます。

<企業価値の算出式>

企業価値(EV) = ネット有利子負債 + 株式価値

ここでは細かく説明しませんが、想像通り、借入が多かった場合は、株式価値は下がるだろうということが理解いただけるかと思います。極端な話、EVは10億だけども株式価値は1円ということもあり得るということです。

  • どうしてその相場感なのか

一般論的に、EV/EBITADA倍率を採用した場合、相場は2倍~10倍程度だと言われることが多いと思いますが、中堅・中小企業のそれにおいて5倍程度にしかならないと、私が申し上げる理由は何故だと思いますか?

何点かございまして、一つは事業計画を策定したことがない会社が多い中、買い手にとって一定の前提条件をおいて計算するということは難しいと言えること、また、買い手ごとに事業計画を作成せずに交渉していることが挙げられます。更に、定性的・定量的な準備を全くせず、話を進めていることもございます。

何より、この手の相場の根拠となるのは、上場会社の基準とされているケースが多いかと存じます。それがそのまま、今まで会計監査を受けたことが無い、創業者・創業家のもとに辣腕を振るってきた中堅・中小企業に当てはまるでしょうか?

基本的に、M&A(事業承継)は情報の非対称性が常に付きまといます。買い手が何度もM&Aを経験されていれば、売り手が初めての場合は、気が付いたら自分が妥協していたなんてことが起きるのは、容易に想像がつくかと思います。今申し上げたことを理解されず、例えば自分の会社はいい会社だ、とか、いろんな会社からオフォーがあるからきっと高い値段で売れるに違いない等、安易に考えてはいけません。

ご自身がお作りなられた会社、もしくは先祖から引き継いだ会社でしょうから、思いが強いのはよく理解しています。しかしながら、第三者に事業承継(M&A)を検討するというのは、全く知らない人から自分の会社を定性的・定量的な側面から評価を受けることなのです。第三者に事業承継(M&A)を検討するには、入念な準備が必要なのです

3.会社の棚卸をしてみよう

では、実際に第三者に事業承継(M&A)を検討する場合は、何からしなければいけないと思いますか。

2つの側面からの準備が必要です。それぞれ解説しますので、みていきましょう。

  • 定性的な準備

定性的な準備としては、代表的なものを上げると下記のものになるかと存じます。

  1. 取引先
  2. 存在価値
  3. 特許

それぞれ簡単に説明していきます。

【従業員】

人は、従業員のことをさし、勤続年数やどういう仕事をしている人が何人いるのか、幹部はいるのか、資格が必要な仕事なのであれば、そういうものを持っている人は何人いるのか、ということです。不動産関係の仕事や、IT関連はこの点が重要になります。地方の会社でも、逆に人材の流動性が低いという点が評価されることもあります。ですから、従業員に関する事項はまず、きちんと整理してください。具体的な整理の手法は、その人が関わっている業務、もしくは関わった業務を人ごとに整理するところから始めてください。

【取引先】

次に取引先です。M&Aの対象となるほとんどのケースに言えますが、買い手からすれば取引先に魅力を感じる=持っている取引口座に対し魅力を感じるということが殆どだと思います。ですから、ご自身の会社がどんな会社と取引があり、その規模感はどの程なのか、もしくは過去の取引実績の一覧を整理してみてください。地方の会社であれば、その地方の有力企業との取引があれば、評価の高い情報といえます。

【存在価値】

第三者に事業承継(M&A)をされる方に共通していえることは、業歴が長いということです。その業歴の長さは、どこからくるものでしょうか?信頼、一言でいうとそうなると思います。取引先の項目と被るかもしれませんが、自社が何でこれまで存続し得たのか、一旦ご自身で考えてみてください。それが、その会社の価値であろうと思うためです。例えば、振りかえると、そのエリアでの商品のシェアが5割を超えているとか、いろんな事実が浮かび上がってくるはずです。こういったものは、往々に整理されていませんので、このあたりをまず考えてみてください。

【特許や許認可】

もし、特許が必要な事業なのであれば、その特許や業務上に必要な認可等は、事業承継を検討される際に整理し、リスト化することをお勧めいたします。

簡単に書きましたが、これだけでも結構整理することがございます。実際には、定性的な準備は他にもまだあります。準備が大切であることが、なんとなくでも理解いただけましたか?では、定量的な準備の事例を見ていきます。

定量的な準備には、下記のものが代表的だと思います。

  • 定量的な準備
  1. 売上推移
  2. 粗利
  3. 一人当たり利益額
  4. 個社別の取引明細

【売上推移】

売上の推移はどうなっていますか?横這いですか、上昇基調でしょうか、もしくは減収傾向でしょうか?どのような状況にせよ、必ず要因がございますので、その点をまず整理することが必要です。更に、売上を構成する要素が何であるのかをまずきちんと整理しましょう。仮に横ばい、減収傾向の会社なのであれば、高い評価を得られるでしょうか?一概に言えませんが、何の準備もしなければ難しいでしょう。会計事務所に全てお任せなのであれば、大事な点になりますので、まずきちんと整理しましょう。

【粗利】

粗利がどのような推移を描いているのかは、とても大切な項目になります。ここは、決算書の合計額の粗利でみても分からないこともあるので、実際は重複する部分もありますが、個社別の採算管理を見ながらどういう傾向があるのかを見ることになります。売上が大きくても、利益が取れていないものもあるはずです。整理をする中で見つけた発見は、事業承継(M&A)を検討するうえで、いつまでに整理するのかという大事な論点になりますので、ここもきちんと棚卸しましょう。

【一人当たり利益額】

ここは一人当たりの利益額が、業界のそれと比較してどうなのかを検証して欲しいです。例えば、人時生産性(粗利/従業員の総労働時間)でどれくらいなのか等、是非検証してみてください。

【取引先ごとの採算】

定量的な準備で最も大切な項目は、個人的にここだと考えています。決算書は個社ごとの取引の積み上げですので、この項目で実際はどうなのか、洗い出しが必要です。良くあるのが、うちはA社さんでもっているからと思っているのに調べてみると赤字を垂れ流している、そんなケースがございます。こういうことがM&Aの後半で発見されたら、当然買い手の評価が下がる、もしくは取りやめたいとなりますよね?そういうことが無いように準備するのが、この項目になります。仮に、そういう事例が発見された場合は、M&Aを検討する前にどう処理するのか、検討が必ず必要です。できれば、販管費まで加味した採算管理表が必要ですが、難しい場合、粗利額は最低でも押さえてください。

4.終わりに

ここまで辛辣に書きましたが、如何でしたか?そもそも、第三者に売却するということはどういうことでしょうか?売買が発生するということは、全く知らない方に価値を付けてもらう、という行為になります。従って、ご自身が思ってもいない低い評価を受けることも十分あり得ますし、一定の評価をしてもらうためには、入念な準備が必要です。創業者が、自社の評価を高くすることはよく理解しますが、第三者に価値を説明するということは、根拠となる定性的・定量的な資料が必ず必要です。そこを理解されずに、事業承継ってなんか聞いたことあるし、売れるなら売ろうかなというノリの方が散見されます。だから、後々後悔するのです。

私自身、創業者や創業家のオーナー一族の皆様がどういう思いで事業をされているかは、理解しているつもりです。それでも、敢えて申し上げたいのは、M&Aを検討する以上、ご自身の定性的な思いだけでは絶対にうまくいかないということなのです。少しでも多くの方が、参考になれば幸いです。

 

かえでファイナンシャルアドバイザリー株式会社

マネージャー マーケティング担当

岡村 新太 Arata Okamura

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