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印刷業界のM&A/事業承継について_岡村 新太

こんにちは。かえでFAの岡村です。今日は、印刷業界について第三者にM&A/事業承継を検討する場合についてのポイント、事例等の解説をさせていただきたいと思います。印刷業界と言いますと、成長産業ではないためM&A/事業承継を検討しても、簡単に話が進まないケースが多いと思います。しかしながら、業界の現状、勢いのある同業者の戦略を見ていけば、どのような準備が必要になるか見えてくると思います。では、解説していきましょう

1.市場規模

まずは市場規模を確認しましょう。一般社団法人日本印刷産業連合会が発表している統計によりますと、2018年におけるその規模は、4兆9,829億円となっています。前年比▲4.3%と縮小しており、事業者数も減少傾向にあることから、基本的には集約化がまだまだ進むものと考えられます。1997年に市場規模が最大化した後、その後は紙媒体のデジタル化といった技術の進歩に伴い、市場規模を縮小し続けているのが現状です。後述しますが、チラシやDM、カタログ印刷を手掛けている商業印刷はこの影響をもろに受けている一方で、食品や医薬品等のパッケージに利用されるラベル印刷等の包装系は、ECの発展と共に成長していたり、分野によって差があるようです。

2.印刷業界の特徴

では、次に印刷業界の特徴を見てみましょう。印刷業界は、工程によって以下の4つに分類できるかと思います。

  • 企画・制作
  • プリプレス(印刷の前工程)
  • プレス(印刷時の工程)
  • ポストプレス(印刷後の工程)

企画・制作というのは、印刷物のデザイン等を設計するところです。ちなみに近年は、印刷に利用する輪転機を持たず、デザインや企画に特化した会社も増えています。プリプレスというのは、企画・デザインされたものを、文字入力や刷版となるフィルムへの出力といった、製版を行います。プレスは印刷物を実際に印刷する工程になります。皆様がイメージされる印刷会社というのは、この部分を担う会社だと思います。

そしてポストプレスは、印刷されたものを指定の大きさに断裁したり、チラシなどであれば折加工を行ったり、製本加工等、印刷物を仕上げる工程になります。

意外と、全ての工程を行う会社が揃っているわけではなく、工程の一部分だけを担う会社がまだまだ沢山あるのが、この業界の特徴だと考えています。

3.印刷会社の種類

工程も複数ある印刷業界ですが、どのような印刷物に関わるのかでも、分類することが可能です。分類するとしたら、下記のようになるかと思います。

  • 商業印刷
  • 出版印刷
  • ビジネスフォーム印刷
  • 包装資材印刷

商業印刷は主に、チラシやDM、ポスター等を取り扱う会社、出版印刷は雑誌や本を専門的に扱う会社、ビジネスフォーム印刷は、事務的な伝票や名刺の印刷を行う会社で、包装資材印刷はダンボールや食品のパッケージを印刷します。中でも、最も沢山の会社があるのが、商業印刷系になると思います。

4.印刷業界におけるM&A事例

では、印刷業界において実際に行われたM&Aの事例を見てみましょう。M&A(事業承継)を考えるオーナー経営者様にとって、実際問題どういった可能性があり得るのか、事例を紹介します。

 ■大手印刷会社が、規模拡大のためにM&Aを行うケース

事例1.株式会社日本創発グループのM&A戦略

株式会社日本創発グループは、印刷物のオフセット製版を事業にしていた、東京リスマチック株式会社が祖業です。1998年に上場した後、毎年のようにM&Aを行い、印刷物からマーケティングまで、現在はクリエイティブサービスを事業とし、紙媒体以外にもノベルティやフィギュア、3Dプリンター造形など、事業ドメインを大きく変容した、特徴的な事業者となりました。同社のすべてのM&A事例について触れることはとてもできませんので、近年の公表事例をピックアップしてみましょう。

株式会社あミューズへのM&A戦略

株式会社あミューズは、愛知県を拠点に構える、カプセル自販機(ガチャ)とカプセルトイの製造・卸会社です。販促用のカプセル自販機がヒットし、業績を拡大していたところを同社のグループ傘下となった事例です。この事例では、単に印刷系の会社をM&A対象とするのではなく、自社の事業ドメインをクリエイティブサービスとして定義したために起きた事例で、こういう自社の事業ドメインを変革するようなM&Aは印刷業界に関わらず増加していくことでしょう。

研精堂印刷株式会社へのM&A戦略

研精堂印刷株式会社は、岡山県に本社を構える、自社で企画から印刷、製本、封入まで行える総合印刷業者です。教育系の会社と深い取引があったこと、地方におけるグループの拠点としての位置づけもあり、傘下となった事例です。

このように2つの戦略を見てきましたが、小職が存じ上げているM&A戦略の中でも、一際面白い会社様が、この日本創発グループ社だと考えています。

事例2.大王製紙株式会社による株式会社千明社へのM&A事例

大王製紙株式会社の戦略も見ていきましょう。大王製紙株式会社は、製紙業界の中では唯一、商業印刷、ビジネスフォーム印刷事業を保有しており、2017年には三浦印刷社を買収、印刷事業を強化していました。株式会社千明社は、カタログ通販向けの印刷事業が強く、シナジーを見込んでの買収となったようです。

■地方の有力な会社が、拠点や規模を拡大するためにM&Aを行うケース

事例3.プリントネット株式会社による株式会社ウィズプリンティングへのM&A事例

プリントネット株式会社は、印刷物の通信販売を行う会社で、2018年に上場しています。同社の特徴は、企画・制作等は自社で行わず印刷工程のみに特化し、その規模を拡大させてきました。買収の対象となった株式会社ウィズプリンティングは、大阪を拠点にする会社で、買収時、業績は印刷業界の業態変化についていけなかった部分もあったようですが、50年を超える業歴、印刷から製本までワンストップで対応可能な会社であったこと、プリントネット株式会社の大阪の拠点として事業シナジーが図れるとして、買収が進んだ事例です。所謂、再生型M&Aの事例になります。本件は民事再生法を利用したM&A事例となるようですが、単純に赤字だから、債務超過だから売却ができないという訳ではないという好事例の一つだと考えています。

事例4.株式会社広真の拡大戦略におけるM&A事例

規模の拡大を目指すM&A戦略は、大企業に限った話ではありません。中堅・中小企業でも活発化しています。小職が存じ上げている事例を紹介しましょう。

株式会社広真は、香川県に本社を置く、チラシやカタログといった商業印刷が得意な会社です。

2005年に大阪府に拠点のあった、株式会社コーヨー21にM&Aを実施し、それよりM&A戦略を本格化させたようです。その後、2013年に東京に拠点のある日商印刷株式会社を、2015年には同じく東京に拠点のある株式会社ワコー、2017年には株式会社エスジェイピー、株式会社シュライバー、2018年にはオカムラ印刷株式会社の印刷事業部を、2019年にはE-グラフィックスコミュニケーションズ株式会社を統合するなど、非常に意欲的に自社の事業ドメインを拡大する戦略を取られています。

このように、今後は、地方に拠点を持ち有力な広真社のような企業が、積極的にM&Aを活用する事例が増えていくと考えています。

5.M&A/事業承継におけるポイント

ここまで事例を通して、各印刷会社の戦略を見てきました。ここからは、実際に第三者にM&A/事業承継を検討するうえでどういった点がポイントとなるか考えてみましょう。

■どのような特徴がある会社なのか

第三者にM&A/事業承継を検討されるのであれば、まず、その会社は商業印刷系なのか、ビジネスフォーム系なのか、包装資材系なのかというように、業界内での立ち位置を整理してみてください。その後、どのような仕事をしているのか、取引先はどういうところなのかを整理してください。どんな仕事をしているのかは、当たり前のことすぎて自身では絶対に考えないことだと思うのですが、その思いや強みをまずは整理してみてください。意外とすぐに答えられないものだったりします。

第三者がM&Aを検討する場合、会社のことがきちんと資料に落とし込まれているか、非常に重要です。従って、まずはここから整理してみましょう。

■保有している設備はどのようなものがあるか

ビジネスの定性的な部分が整理できたら、保有する設備についても整理してみましょう。一重に輪転機といっても、オフセット輪転機なのか、平台なのかでは受注できる仕事も変わりますし、オンデマンド印刷機であれば尚更です。そして、輪転機が何年前のもので、状態はどうかもちゃんと整理してみてください。印刷業界で設備といえば輪転機ですし、この資産がどうなっているのかは、価格を決定するうえでも重要な意味を持ちます。

また、設備を整理するうえで原価計算がきちんと行われていたか、についても確認してみてください。意外と見積単価と実際の受注単価を後で検算せずにそのままということもあるはずです。もしそうだとしても、準備をしていく中で整理していけば問題ありません。

土地を保有している会社様であれば、土壌調査が必要になるケースがあり得ます。基本的にきちんと利用されていれば問題ないはずなのですが、第三者にM&A/事業承継を検討されるのでしたら、不安要素となり得ますから、確認すべきです。

6.まとめ

いかがでしたでしょうか?印刷業界は経営が困難になっている会社が多く、買手が見つかりづらいという事実があります。その中でも、きちんと準備をしてM&Aに臨めば、希望する条件を勝ち取ることもできるはずです。そのためには、会社の運営状況がしっかり見えることが大切です。

ここで説明した内容を参考にして、納得のいく事業承継に繋がれば幸いです。

 

かえでファイナンシャルアドバイザリー株式会社

マネージャー マーケティング担当

岡村 新太 Arata Okamura

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