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農業業界のM&A・事業承継の動向とポイント_岡村 新太

2001年の小泉政権による各種の規制改革、2009年の民主党政権の誕生をきっかけとして、農業業界については各種の規制改革が図られてきました。また、就農人口は1960年の1,454万人から2019年の168万人に減少し、平均年齢は2000年に60歳を超え、2019年には67歳と高齢化が進んでいます。耕作放棄地は1975年の13.1万ヘクタールから2015年の42.3万ヘクタールにまで増加しています。
こうした状況のなか、国や地方自治体は、日本における農業の再興と活性化のために、農業のプロの育成、異業種からの参入促進、耕作放棄地の有効活用などの施策を展開しています。業界再編が進んでいない、と捉えられがちな農業業界ですが、水面下ではM&Aを通じて、「隠れた革命」ともいえる変更が進行しています。

1.農業業界の市場環境について

そもそも、農業界においてM&A(事業買収・売却)を行うことは、一般的に「使える手法」として知られていません。再イグジットを見越したキャピタルゲインが計算できる業界ではないため、純投資プレーヤーの参入が困難なこともあり、他業種のような大規模なM&Aはほとんどありません。このことは、農業業界のM&Aに一種の裁定機会を提供しており、垂直統合、つまり農業における川上から川下までを統合し、生産から消費者へ届けるまでを自社で一括管理して価格変動リスクを自社で負うといったスタイルのM&Aを実行できるプレーヤーにとっては、M&A案件を独り占めできる業界になっているのも事実です。

「隠れた革命」とも言える水面下での業界再編が密かに進行しています。特に夫婦で農業を営み、高齢によりリタイア局面を迎えるも後継者不在で、八方ふさがりになっている農家は数多くいます。表にはあまり見えてきませんが、売り手・買い手の双方の量は、一定程度大きい業界です。ただし、案件ニーズの発掘が、距離的、あるいはコスト的にも難しいという課題があります。農家の間にはM&Aに関する認知もまだ進んでおらず、仮に知っていたとしてもネガティブなイメージを持っている方も数多くいます。

2.農業業界のM&A手法

農業については、大きく分けると個人事業主と農業法人とが営んでいます。農業法人とは、さらに農業組合法人と会社法人(株式会社、有限会社、合名会社、合資会社)に分けられます。M&Aはほとんどが会社法人で実行され、株式会社と有限会社が中心です。実態としては1人または夫婦が運営している法人で、一般的なイメージのM&Aと異なっているように見えるでしょう。農業の会社法人は、基本的に個人にリスクとリターンが帰属しており、融資も個人に付きます。ファンドが大量の資金を投入し、複雑なM&Aスキームを用いて大きなキャピタルゲインを狙うM&A手法は、農業業界では一般的には使われておりません。案件としては、個人事業主であっても、良い作物を作り、ある程度の規模があればM&Aの対象になります。売上規模的には、年商5,000万円ぐらいからM&Aの実行が可能です。

一般的な会社のM&Aで最も利用頻度の高いスキームは、株式譲渡となりますが、農業法人のM&Aにおいて利用する場合には注意が必要です。株式を取得される会社が農地を所有している場合には、株式譲渡後も農地所有適格法人の要件(法人要件、事業要件、議決権要件、業務執行役員要件)を維持する必要があります。原則としてその法人が行う農業に従事する者が議決権の過半数を持っていなければ農地所有適格法人の要件を満たせませんし、個人であっても常時従事者でなければそもそも過半数の株式を所持することができません。そのような事業の継続可能要件については、事業の売却・買収を視野に入れた段階で、適切な専門家に調査を依頼する必要があるでしょう。

多くのMA業者は初期的な相談時点で着手金を要求しますが、当社はオーナー様と共にリスクを分かち合う観点から、原則として完全成功報酬にて対応しております。

3.M&A・事業承継のポイント

農業関連の事業を売却する際、「できるだけ良い条件で売却したい」という方が多いと思いますので、その良い条件を獲得するためのポイントを解説します。交渉を有利に進めるためにも、買い手が見るポイントを知っておいて損はありません。

①商品(作物)の魅力の向上

農業案件に投資を行う買い手からすると、大事なのは「買収した後に自社グループとなった商品が売れるかどうか」です。したがって、オーナーの皆様がされている、日々の商品力の向上努力、作物の魅力アップがそのまま売却条件の向上につながります。日々の地道な努力は、長期的には本人の利得につながるというのが世の常です。

②ブランド・商標の継続利用

日本、さらには世界で高い認知度を誇る作物は、既存の顧客を獲得できるだけでなく、そのブランドや商標の価値を活用し更なる展開が見込めます。M&Aの実施後に、買い手グループのなかでも継続してブランドや商標を利用できるかどうかは、事業価値に直結するため、ブランドについては可能な限り自己所有とするのが望ましいです。

③行政機関・許認可機関との良好な関係

農業は公共性が高い事業のため、買い手は行政機関からの注意喚起や周辺組合から寄せられたクレームなどを気にします。過去にもめごとや、周辺農家と係争があった場合は、どんな対応を行ったのか、状況説明できるようにリストを作成しておくと良いでしょう。これは、買い慣れた投資家が相手方となった場合は、必ず聞かれる質問であり、M&Aアドバイザーが相談を受けた場合も、最初に注意する必要があります。

農業業界におけるM&Aの経験が豊富なM&Aアドバイザーは、残念なことにあまり多くありません。上記のように、業界の特殊性が高い、案件数も限られているためです。農業業界における事業のご売却、ご買収をご検討される場合は、経験豊富なアドバイザーにご相談されることをお勧めいたします。

 

かえでファイナンシャルアドバイザリー株式会社

岡村 新太 Arata Okamura

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