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M&Aにおけるオーナーへの寄り添い方4_岡村 新太

M&Aを成功に導くために必要な心構えについて、アドバイザリー業務を通じて日頃感じている思いを全4回シリーズでお届けします。

話を聞く、聞き出す

オーナーの意思決定を支援するにあたり、一定の観察力を前提としたうえで、アドバイザーに求められるのは、話を聞き出す姿勢である。観察可能な経営指標や、オーナーの言動の変化というのはどうしても情報に限りがある。案件がある程度進行したタイミングでは、アドバイザーは主体的に情報を収集し、ベストなアドバイスができる状態を保つよう、心がけるべきである。会社の経営状態などは、オーナーのみならず従業員の方からも聞き出し、アドバイザーとして客観的に引き出すべきであり、その際には話を聞く姿勢が重要になる。

こうした傾聴の技法は、M&Aビジネスにおける重要性が高い一方で、交渉の技法と比して触れられることが少ないため、そのコツを例示したい。

オーナーを始めとする売却企業の関係者と話をするときにまず大切なポイントは、YESを示す相づちを打ち続けることである。臨床心理士等が行うカウンセリングの基本的な姿勢として「相手から信頼してもらう」というのがある。人間の習性として、話を聞いてくれる相手を信頼する、という特性があることから、相手の話を聞き且つ、話を聞いている姿勢そのものを言動で示すという点は、非常に重要である。筆者もそうであったが、M&A業界に入ったばかりの頃は自分に自信がなく、経営者などの相手方の話す内容の細かい点に注意がいきがちである(PLの辻褄があっているかどうか、PLとBSの辻褄が合っているかどうか等)。しかし、そうした辻褄は、話を聞いた後にアドバイザーだけでも検証できるものが多く、多くの場合において大切なのは「経営者にしっかりと思いを話してもらう」という点である。辻褄の確認で話の腰を折られると、人間は思いの全てを話そうとは思わない。どうしても確認したい重要な点があるならば、それは会話(臨床心理的にいうところのダイアローグ)がある程度進展した後に、アドバイザーの側から「1点だけ聞いてもよろしいでしょうか?」のような前置きをしたうえで聞くべきものである。もちろん、一定の場合(オーナー社長との交渉が避けられない場合)は、アドバイザーがすべき主張を目いっぱいすべきであるが、M&Aの主役がオーナー社長である以上、原則としては聞く姿勢・YESと発する姿勢のほうが大切である。

話を聞く姿勢として、第二に重要なポイントは、事実に対して真剣な関心を持ち続けるという点である。アドバイザーがM&Aの売却支援を行う際、目を背けたくなる事実が顕在化するということは頻繁に起こる。たとえば、基本合意の直前に、想定していた営業利益の半分も達成できないことが分かること、重要従業員の退職意向の判明、過去の粉飾等により売掛金の簿価と実態額に差額があることが判明、等があげられる。そうした事実は、事業収支に大きな影響を与え、事業価値の毀損が顕在化することが多いことから、M&Aを実行する場合の対価の額に影響し、いわゆるディールブレイク要因となることが多い。ディールブレイク要因を発見した場合には、「なぜそのような事実が起こった」という点につき、アドバイザー自身が自らのこととして関心を持ち続けることが重要である。M&Aアドバイザー業では、慣行として取引完了(クロージング)時に報酬を得ることが多いことから、そうした経営上の重要な変化から、目を背けるというインセンティブが、アドバイザーには内在している。しかし、経営が上手くいっているか、今後の事業運営に支障がないかどうかというのは、オーナー社長が最も気にしている点であるため、事業継続上の重要な事実には、目を光らせ続ける必要がある。

最後に、かつ最も重要な第三のポイントは、正直な質問を投げかけ続けることである。第二のポイントで例示した経営指標の悪化等は、オーナー社長に直接要因を尋ねるのは、ヒアリングや打合せの状況によっては失礼にあたる場合もあり、聞きづらいことが多い。しかし、分からない点を分からないままにしておき、投資家や買い手企業に正確な状況を伝えないと、後々に対価の低下要因になる可能性があり、リスクはすべてオーナーに跳ね返ってくる。相手が聞きたくないことを、事実として正直に提示し、要因を分析する(質問を投げかける、場合によっては一緒に考える)のは、アドバイザーがM&Aをクロージングに導くために、最も大切な要素である。そして、「2.観察する」で述べたように、オーナーの置かれている環境は日々変化するものであるので、環境とタイミングをよく把握したうえで、相手が回答しやすい/考える時間をつくりやすい時機をみて質問を投げかけることをこころがけたい。正直な質問を投げかけることはオーナーと二人三脚でM&Aをクロージングに導くためには、最も大切な、アドバイザーが意識すべきポイントとなる。

 

かえでファイナンシャルアドバイザリー株式会社

岡村 新太 Arata Okamura

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