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保育業界のM&A・事業承継の動向とポイント_佐武 伸

昨今、女性の社会進出や保育士不足を背景に、都市部で待機児童問題が深刻化していると言われています。これに対し政府は子育て支援政策を強力に推進しているため、保育に関連する業界では、順調に市場が拡大しています。また、業界内のM&Aや異業種からの新規参入も目立ってきています。本稿では、保育業界の市場環境、M&A動向、M&A事業承継のポイントについて解説します。

1.保育業界の市場環境について

女性の社会進出と保育士不足で、待機児童の問題が特に都市部で深刻化しています。この傾向は今後も続くと見込まれていることから、民間の大手保育関連企業を中心に保育園を開設する動きが活発化してきています。

一方で保育士の人材不足は深刻です。保育士の有効求人倍率は依然として高く、保育士の確保が喫緊の課題となっています。保育士資格を取得したとしても、保育業界に就職するのは約半数程度と言われ、就職しても約半数が5年未満に退職してしまうという調査結果もあります。

近年の保育業界において、多様化する保護者のニーズに対応したサービスや企業のブランドイメージ向上を目的としたサービスを提供する保育園も増加しています。企業が設置・運営する「企業主導型保育所」、企業が従業員に対する福利厚生の一環として、企業の内部や近隣に設置・運営する「事業所内保育所」、などです。子どもを預けたくても預けられない保護者が数多くいることから、大手民間保育関連企業にとっては、大きなビジネスチャンスです。

2.保育業界のM&A動向

大手民間保育関連企業による保育園開設、他業界からの新規参入の動きが増えてきています。前者は保育士確保や規模を拡大するため、後者は保育所の運営ノウハウ獲得のための戦略として、M&Aを活発化しています。

保育業界へ異業種から参入する場合、国の定める基準をクリアし、都道府県知事の認可を受ける必要があり、ゼロから保育士を採用するにも時間とコストが膨大にかかります。そのため、異業種から参入する場合、短期間に経営資源、顧客を取り込むことができるM&Aが積極的に活用されています。

異業種からの新規参入では、既存事業とのシナジー効果獲得を狙ったM&Aも見られます。例えば、学習塾が保育園をM&Aすることで、顧客層やサービスの幅を広げることができ、売上の拡大を見込むことができます。また、不動産管理会社が保育園をM&Aすることで、自社物件を有効活用でき、不動産の価値向上が期待できます。

保育園には「認可保育園」と「認可外保育園」がありますが、国の基準をクリアしているという安心感ゆえに認可保育園をM&Aしたいという企業が増えています。

認可外保育園でM&Aのニーズが高いのは、独自の教育方法を持っている施設です。認可外保育園は、サービス内容を自由に設定できるメリットを生かし、英会話や体操など、子どもたちの成長につながるような教育に力を入れている園もあります。認可外だから売却できないということはなく、特徴があれば、買い手から十分興味を持ってもらえます。

これまで、保育業界における買手ニーズについて紹介してきましたが、売却を検討する保育園も増えています。近年、保育所の売却動向として増えているのが、社会福祉法人の売却です。保育士の労働環境や待遇改善ができず、保育士が離職してしまい、経営を続けることができなくなった保育所を売却するというケースもあります。

3.M&A・事業承継のポイント

保育園の売却するとき、「できるだけ良い条件で売却したい」という方が多いと思いますので、その良い条件を獲得するためのポイントを解説します。

まず交渉を有利に進めるためにも、買い手が見るポイントを以下で説明します。

【買い手が見るポイント】

①保育園の立地

保育園のM&Aでは、立地が重視されます。駅周辺や住宅・マンションが密集する地域の保育園は、有利と言えるでしょう。

②保育園のブランド・商標の継続利用

地域から高い認知度を誇る保育園は、既存の顧客を獲得できるだけでなく、そのブランドや商標の価値を活用し更なる展開が見込めます。地域に密着したブランドかどうか、ブランド名を継続活用できるかどうかは、M&Aで重要な問題になります。

③行政機関からの注意・保護者からのクレーム

保育園は公共性が高い事業のため、買い手は行政機関からの注意喚起や保護者から寄せられたクレームなどを気にします。過去にどんなクレームがあったのか、どんな対応を行ったのか、状況説明できるようにリストを作成しておくと良いでしょう。

④保育士の定着率

保育園を運営していくうえで、保育士は欠かせませんので、保育士の定着率が低い場合、原因が待遇にあるのか、労働環境にあるのか、など原因を突き止めておくと良いでしょう。

⑤地域や保護者のニーズに合ったサービス

教育水準の高い地域などであれば、子どもを預けるだけでなく、英語や体操といった子どもの成長を支援する取り組みも重視されます。地域や保護者のニーズと、施設の提供するサービスが合っているかどうか確認しましょう。

【良い条件で売却するポイント】

①経営課題は伸び代と考える

どんな保育園でも何らかの経営課題を抱えています。まず売却の一番のポイントは、経営課題をネガティブなものとして捉えるのではなく、「伸び代」として捉えることです。つまり、自社で解決できない経営課題を解決してくれる買い手が「ベストパートナー」、イコール「良い条件を出してくれる相手」ということです。例えば、保育士の採用に課題があれば、採用に強い買い手と組むべきですし、資金調達に課題があれば、資金に余裕がある買い手と組むことがM&Aで良い条件を引き出す重要なポイントです。

②赤字の原因を明らかにする

「赤字だから売却できない」ということはありません。保育園を売却するうえで、重要なのは赤字の原因を明らかにすることです。例えば、赤字の原因が保育士不足にある場合、「もし保育士を採用できれば現状の売上の50%程度は伸ばすことができる」などと、きちんと伸び代を反映させた説明をすべきです。さらに、赤字の原因を解消できた状態の事業計画を準備しておけば、その伸び代が買い手から高く評価されます。

③保育士の引き抜きを目的としたM&Aに注意

M&Aのプロセスを進めるうえで、買い手から従業員リストの提出を求められる場合があります。中には保育士の引き抜きを画策する買い手もいるため、個人名などの固有名詞は伏せてください。また、M&Aが従業員に与える影響は大きく、不安を感じる保育士は多いものです。保育士の離職につながらないよう、情報漏洩には注意してください。従業員に開示するタイミングは最終契約書を締結した後が望ましいといえるでしょう。

④成約後は速やかに保護者説明会を開催

保育園の運営において、保護者との信頼関係は重要な要素です。買い手は保護者の反応を心配します。保護者の理解を得るためにも、M&Aが完了した段階で速やかに保護者説明会を行い、買い手が安心できる企業であること、M&A前と運営は何も変わらないことを伝えましょう。

⑤行政とのコミュニケーションは密に行う

M&Aを行うことで、買い手は売り手の許認可を引き継ぐことができ、スピーディーに事業を始めることができますが、認可保育園などは、国や都道府県知事の認可を受けて保育事業を行っているため、M&Aを実行するにあたっては行政の事前手続きを完了させる必要があります。売り手または買い手によっては、この事前手続きがなかなかスムーズに進まない可能性もゼロではないため、M&Aのプロセスを進める際には行政と早めに相談するようにしましょう。

 

かえでファイナンシャルアドバイザリー株式会社

代表取締役

佐武 伸 Shin Satake

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