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M&Aにおけるオーナーへの寄り添い方1_佐野泰久

M&Aを成功に導くために必要な心構えについて、当社マネージャー、佐野泰久が日頃感じている思いを全5回に渡って語ります。

―序にかえて―

 

本稿執筆時点では、日本の中小オーナー企業のM&Aマーケットはますます活況を呈してきている。M&Aの件数自体は、新聞報道などでも触れられる通り逓増傾向であるし(調査元によって数字にバラツキはあるが、国内企業同士の統合であるin-in案件は2017年頃に3,000件を超えたとされる)、M&Aのアドバイザー会社が続々と上場を果たしている(2019年11月に、新たに明南M&A社が上場)。
一方で、現場に立っている者の肌感覚としていわゆる質の悪い業者も増加しているという実感がある。当社が受任していた案件でも、他のプレーヤーが参加することにより、本来は内々に進めたい事案を半ば公表案件としてしまうこと(出回り案件化)や、市場水準を超えた想定売却価格をオーナーに期待させて実質的に売却を困難にしてしまうこと(期待値コントロールの失敗)が頻発している。
そのような業者は、大金を稼ぐ手段としてM&A仲介を実施していることが多く、資本主義経済の下ではお金を稼ぐことは大切なことであるが、「M&Aは誰のためになされるべきか」という視点が欠けていることが多い。筆者は、M&Aは原則として、売り手オーナーに寄り添ってすすめるべきものと考えており、それは筆者が買い手側(入札、相対の双方を含む)について買収を実行する場合にも、売り手オーナーへの配慮を欠かさないようにしている。

では、具体的に「売り手オーナーに配慮する」というのはどのような事だろうか。M&Aアドバイザーという立場から見ると、M&Aというのは会社を売却したいオーナー社長がいてこそ成り立つビジネスである。したがって、アドバイザーのみならず、弁護士や会計士・税理士といったM&A関係者は、会社を売却するオーナーの売却動機、望む結果、望むプロセスについて、極力理解をする必要がある。もちろん、人間同士のやりとりであるため、完全に相互理解をすることは困難であるが。

一般的に知られているように、M&A業務は、①オーナーによる売却(イグジット)意向の着想・相談、②初期的な売却可能性先(買い手企業)への接触、③買い手企業からの意向の表明入手、④双方の合意に基づく基本合意、⑤財務・法務などのデューデリジェンス、⑥最終契約の締結・クロージング、という手順によって進められる。①~⑥の一連のプロセスのなかでオーナー社長には常にM&Aによる会社売却(イグジット)を撤回するというオプションを所有している。M&Aは金額的折り合いのみによって成立するものと思われがちであるが、オーナーが売却に至るまでに気にする条件というのは、多種多様である。筆者が経験しただけでも、a.残される事業の運営方針、b.会社所有権を手放した後のオーナー自身の処遇、c.従業員の処遇、などは必ずオーナーが買い手と折り合って良いか迷う点であり、d.株式が分散している場合の少数株主の処遇、e.親族を雇用している場合の親族役職員の待遇、など論点については枚挙にいとまがない。

オーナーによるイグジット型M&Aを成約させるには、上記①~⑥のプロセスのなかで優先順位と希望条件が変わり続けるオーナーのa~e(あくまで例示)等の要求にこたえ続ける必要がある。進展する時間軸のなかで、常に優先順位の変更を考慮し、案件をリードするというのは、ある種の三次元的なゲームであり、決して金額の多寡のみによって成約の可否が決まる物でないことは、改めて念押しておきたい。

では、そのような変わり続けるオーナーの気持ちに寄り添い、オーナーのなかでの優先順位を、アドバイザーとして知り続けるために必要な心構えとはどのようなものであろうか?オーナーから正直な想いを聞き出し続け、アドバイザーとして成長を続けるために必要なふるまいとはどのようなものであろうか?

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