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④中堅中小企業が抱える内部人材及び買収資金の問題

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2015.7.21

海外企業買収や海外事業展開に際して、日本企業にとって最大の課題になっているのは、実は人材の問題であります。

日系の買い手顧客企業がずっと探していた理想的な案件が入ってきても、実際検討の段階になってしまいますと、

仮に買収が成立した時に、現地企業に送り込む人材をどうするかという問題に直面します。

今の海外M&Aブームを牽引しているのは、海外事業に慣れている大手上場企業ではなく、今まで国内市場中心(Domestic orientedな)に事業を展開してきた中堅中小企業です。

これらの会社に共通しているのは、海外企業買収後に現地にて事業展開をリードできそうな語学が堪能で、海外事業を経験した人材が全くいないか、皆無に近いという点です。

これは非常に深刻な問題で、どのように海外企業を買収するかというプロセスも重要ではありますが、最も重要なのは、買収した後にどのように買収先の企業を伸ばしていくかに限ります。

従い、人材の問題は、M&A案件の今後の成功を左右するような極めて重要なテーマですので、人材の問題を克服するためのソリューションを類型別に提案します。

第一に、海外事業展開ができる人材を社内に抱えていない会社の場合、外部から該当する人材を中途で採用する方法が考えられます。

必要な人材が社内にいなければ、外部から引っ張ってくることは極めて自然な考え方といえますが、意外とこの選択肢を採用される企業は非常に少ない印象を受けています。勿論、業種によって中途採用の活用に係る柔軟性に違いはありますが、メーカーの場合は、何とか既存の人材だけで突き進もうとする傾向が非常に強いです。既存の内部の人材に対する配慮という日本企業独特の企業文化も影響していると思われます。通常、買収後に現地企業に送られる駐在員の属性は、メーカーであれば、生産技術・管理回りのエンジニア、営業担当者、法的な代表者に相当する責任者で構成されることが多いですが、駐在員全員が語学に堪能で、海外事業を経験している必要はないものの、最低限の国際事業ができる人材はいた方が望ましいといえます。従い、今までの人事システムを柔軟に運用して、外部の人材を積極的に活用する方法を取り入れることは、今後の海外企業買収の成否に係る重要な問題ですので、より積極的に検討をすべきであると思います。

第二に、買収後に現地企業に送られる駐在員に語学などの問題がある場合、現地人の通訳を採用し、駐在員につける方法があります。最もよく活用される方法であると思いますが、展開する国によっては、良質の通訳を採用できないケースやどうしても人を介してのコミュニケーションになるので、様々な誤解が生じたり、意思疎通がスムーズにいかなかったりすることも覚悟しなければなりません。現地の従業員と駐在員が直接、コミュニケーションを取ることで、より親密な関係になることはよくありますので、通訳にすべてを頼るのではなく、駐在員の段階で、英語または現地語を継続的に学習する努力も必要になります。

第三に、現地の事業環境に詳しい日系の事業パートナーのリソースを活用する方法になります。現地での事業展開を単独で行うのではなく、事業パートナーに株式の一部を持たせて、事業パートナーとして二人三脚で現地での事業を進める方法です。メーカーであれば、原材料の調達や現地での営業が必要になりますので、原材料の調達回りで、すでに現地に進出している日系の原材料メーカーや商社のうち、すでに事業関係にある会社に事業パートナーになってもらう方法です。また、営業回りにおいても、日本の大手・中堅商社は、結構、様々な国で事業を展開していますので、これらの会社にも株式を一部、もってもらい、事業パートナーの関係を作る方法です。
事業パートナーに入ってもらうことで、事業に対する決定権が薄まるのは避けられないですが、例えば、特別決議ができる持ち分比率は最低、抑えて、少数株式をこれらの事業パートナーに持ってもらうことが想定できます。
ただ、案件のクロージングの段階で、これらの事業パートナーが参加することになりますと、買い手が複数になるため、様々なプロセスが複雑になりますので、一旦、譲渡予定の株式を1社のみで引き受けた後に、しかるべきタイミングに、これらの事業パートナーに株式を譲渡する方法をお勧めします。

また、事業パートナーを活用するメリットの一つとして、買収に係る資金の負担を軽減することができる点です。特別決議ができる持ち分さえ確保できれば、すべての株式を保有する必要性は考え方によってはありませんので、買収資金の負担を軽減するためにも事業パートナーに入ってもらう意義はあるといえます。

第四に、PEファンドのようなファイナンシャル・インベスターを活用する方法です。特にDBJ(日本政策投資銀行)やJICA(国際協力機構)などの政府系の金融機関は、日系の事業会社が海外企業を買収する際に買収資金だけではなく、様々なリソースを提供しており、日系企業と共同で現地企業の買収にマイノリティ・インベスターとして参加した実績があります。これらのファイナンシャル・インベスターと買収案件を共同で検討するメリットは非常に大きく、案件検討時にプロの投資家としてのファイナンシャル・インベスターの知見を活用することができます。また、これらのファイナンシャル・インベスターは、マイノリティ・インベスターとして株式をもってもらうだけではなく、買収資金をローンの形で提供してくれますので、折角よい案件が入ってきたのに、買収資金が足りない時に活用する意義は大きいといえます。

また、これらのファイナンシャル・インベスターは、投資後の対象会社の会計などの管理面やガバナンス面の整備、オペレーションの合理化などを得意としていますので、案件に入ってもらうメリットは大きいといえます。但し、ファイナンシャル・インベスターは、投資したお金を数年後に回収する必要がありますので、通常、買収をリードする事業会社との間で、株主間契約を締結し、Put optionを付与してもらうのが一般的です。ファイナンシャル・インベスターは、投資後3-5年後に、このPut optionを行使し、保有する少数株式持ち分を大株主の事業会社に事前に決まった株価算定ロジックにもとづき、譲渡し、本件からExitすることになります。

第五に、PMI(Post-Merger Integration: M&A成立後の統合プロセス)の活用です。M&Aによる統合効果を確実にするために、M&A初期段階より統合阻害要因等に対し事前検証を行い、統合後にそれを反映させた組織統合マネジメントを推進することは、非常に重要です。
現地企業に送られる駐在員の語学や海外経験だけでは不十分で、特に企業文化の違いをどのようにマネジメントするかはPMIの重要なテーマになります。
通常、このようなPMIの実施を専門とするコンサル会社は多数ありますが、コストが追加でかかることになりますので、中堅中小企業の段階で、外部のコンサルを活用し、PMIを実施する例は少ないと思われますが、M&Aの成否は、買収後にいかに企業文化の違いを克服し、ソフトランディングするかにかかっていますので、PMIへのリソースの投入を検討する意義は大きいといえます。


ジョシュ パク(パートナー)
かえでファイナンシャルアドバイザリー㈱
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