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なぜクロスボーダーM&Aなのか?⑤海外展開における経営課題解決のツール(Market Entry Strategy)とは?

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2015.5.28
本コラムは、クロスボーダーM&Aに係る論点にフォーカスしているため、企業が抱えている様々な経営課題のうち、海外市場展開に係る経営課題に焦点を当てて、展開していきます。

海外市場展開に係る経営課題には、すでに進出している海外市場で、さらに事業を拡大するためにはどうすれば良いかという論点と、まだ進出していない全くの未開拓の海外市場にどのように進入し、事業展開を図るべきかという論点があるかと思います。日本の上場企業クラスの大手企業だけではなく、中堅中小企業の段階でも海外市場に何等かの形で進出し、事業展開を図っている会社も多いかと思いますが、海外市場展開にはどのような方法があるのでしょうか。

海外市場参入及び展開の方法を英語ではMarket Entry Strategyといいます。このMarket Entry Strategyには、大きく3つの方法がありますが、一つ目の方法は、Incorporation(現地法人設立)。二つ目の方法は、JV(ジョイントベンチャーの組成)。三つ目は、M&Aになります。それぞれの会社を取り巻く経営環境や保有する人的・資金面などのリソースがすべて異なりますので、どの方法が最もいいのかというベスト回答はありません。
どちらかというと、それぞれの会社が置かれている経営環境に最も適しているMarket Entry Strategyは何かをまず、よく見極める必要があります。

まず、Incorporation(現地法人設立)という選択肢が最も活かされやすい会社というのは、会社としてのブランド認知度や海外市場でもすぐ展開できる商品力を有する会社であります。特に、未開拓の海外市場で現地法人を設立するということは、現地社員を雇い、現地顧客の好みを把握するための市場調査やマーケティングを行いながら、現地の顧客を獲得するための営業をすべてゼロベースでやらなければならないことになります。すべてゼロからスタートすることになりますので、成果が出るまでに最も時間のかかる選択肢になります。例えば、インドや東南アジアで売上20億円以上を上げている企業の多くは、業歴で最低10年以上の会社で、その多くは20年以上の業歴を持っている会社になります。言葉や文化に不自由がない現地の人が母国で10年20年の年月をかけてようやく20億円以上の売上に到達するわけです。勿論、20億円以上の水準に到達する現地企業は勝ち組に入りますので、20年以上の業歴があっても20億円の売上を下回る会社の方が多いといえます。
一方で、ましてや言葉も文化に慣れてない日本企業が初めて出ていく海外市場で現地法人を作り、一から事業を開始し、積み上げていくには相当の時間がかかるであろうというのは容易に想像ができます。国際的にブランド認知度の高い大手企業や非常に高い商品力のある会社であれば、現地法人設立という選択をしても、立ち上げから軌道に乗るまでの時間がかなり短縮できるかもしれませんが、中堅中小企業にとっては、非常にチャレンジングな選択肢になります。特にアジアの新興国で現地法人の設立を進めるための申請回り複雑な手続きなど、慣れてない、且つ、時間のかかるプロセスを手探りでリサーチし、外部のコンサル会社の協力を得ながら、進めていかなければなりません。

一方で、海外市場で現地のパートナーとJVを組成する選択肢はどうでしょうか。
まず、JVという選択肢を選ばれる企業の考え方としては、現地法人設立と違い、現地に事業パートナーがいる前提ですので、JVで新設する会社の立ち上げに際して、人的リソースやブランド、ノウハウ、マーケティング、潜在顧客とのネットワークなど、日本側JVパートナーが現地で事業を遂行するにあたり、必要なリソースを現地のパートナーが提供してくれます。当然、日本側のJVパートナーからも事業を立ち上げるための資金や技術、商品力や生産や経営回りのノウハウなどを提供することが求められます。どちらか一方のJVパートナーに事業の立ち上げや展開に必要なリソースの注入が期待できない場合は、JVはそもそも組成されないですし、設立されたとしてもうまくいきません。

よくある論点として、現地JVパートナーは、個人ではなく、すでに法人であることが多く、その現地法人が有する何らかのリソースを拠出してもらい、JVを組成することになりますので、その現地法人の既存事業でないところで、JVが組成されるのであれば、現地JVパートナーによるJVへの貢献度合いは限られてしまいます。一方で、その現地法人の既存の事業に近い事業をJVで行おうとした場合、当然リソースの拠出をしてもらわないとならないため、既存の現地法人とJVとの間で、利害衝突が起こることがあります。また、JVの組成につき、双方のパートナーが一定比率にもとづき、資本参加をするわけですが、双方が力を均等に維持するために双方の持ち分比率を50:50でもっていくパターンがよくあります。双方の株主としての権限や力が同一である場合は、逆に意思決定の阻害要因になる、なかなか決まらないということが多いのもよく指摘されています。

他にJVという選択肢が選ばれるケースというのは、東南アジアにはまだ、外資に対する規制が様々な業種で残っているため、M&Aで過半数の持ち分を取得できる案件はそう多くありません。例えば、インドネシアやタイなどの東南アジアの国ではそもそもM&A案件が非常に少ない現状があり、現地法人設立という選択をされたくない企業にとっては、やむなしに現地のJVパートナーを見つけ、JVを組成する選択をせざる得ないこともよくあります。

最後にクロスボーダーM&Aという選択になりますが、アジアの中で、東南アジアに比べて、インドは比較的にM&A案件が多く、業種毎の外資規制も東南アジア諸国に比べて緩いので、買収でインド市場に参入するのはお勧めであります。インドはアジアといえども人々の外見や独特な文化など、少し雰囲気が違いますので、現地法人設立をゼロベースで立ち上げるのはさらにチャレンジングであるといえます。
M&Aの最大のメリットは、すでに相応の業歴があり、顧客やサプライヤーがありますので、
買収後、ただちにすでに回っている事業に参加することができます。これは現地法人やJV組成という選択肢に比べて、買収資金回りの初期投資額は大きくなりますが、時間を買うことができ、未開拓の海外市場でまさにジャンプスタートすることができます。繰り返しになりますが、東南アジアやインドの勝ち組企業で、20億円以上の売上を作るために20年近い年月をかけて到達することがよく散見されますので、仮に20億円の売上を有する現地企業を買収する場合は、まさに20年という時間をセーブし、ジャンプスタートすることができるわけです。金融の基礎理論の中に、Time Value of Moneyというコンセプトがありますが、20年という時間を現在価値に換算すると、かなりの負担額になりますので、目先の投資額は増えますが、M&Aという選択肢は魅力的な選択肢であるといえます。



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